わたしはフリーダ・カーロ 絵でたどるその人生 マリア・ヘッセ著 花伝社

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わたしはフリーダ・カーロ

『わたしはフリーダ・カーロ』

著者
マリア・ヘッセ [著、イラスト]/宇野 和美 [訳]
出版社
花伝社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784763409263
発売日
2020/06/22
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

わたしはフリーダ・カーロ 絵でたどるその人生 マリア・ヘッセ著 花伝社

[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

 その女性はくりっとした目でこちらを見つめている。寂しげで力強いまなざしが何かを訴えているようだ。メキシコの画家フリーダ・カーロが描く自画像は独特のオーラをまとう。本書はイラストと文章で語る彼女の評伝である。

 利発な娘だったフリーダは交通事故に遭い、九死に一生を得た。長期間寝たきりになり、ベッドの天蓋につけた鏡に写る自分自身を見つめるうちに自画像を繰り返し描くようになった。

 しばらくして、20歳以上も年上の高名な壁画家ディエゴ・リベラに出会う。これが2度目の「事故」だった。じきに結婚、夫に尽くしたが何度も浮気をされた。彼女のほうも彫刻家イサム・ノグチや革命家トロツキーと関係を結んだけれど、いつもリベラに戻っていった。

 教会への奉納画をヒントにして、フリーダはわが身に起きた苦しい出来事を絵にしはじめる。流産、事故の後遺症による体の痛み、裏切られた心の苦しみなどを表現し、苦悶(くもん)を作品に移し替えることで、彼女は生き延びた。表現によって自分を救い、絵の中に自分自身を宿らせたのだ。私的な祈りのための小さな絵は、巨大な壁画よりもぼくたちを深く感動させる。

 本書のイラストレーターはフリーダの作品にアレンジを加えて、一代記の各場面を彩るイラストに変えた。他方、評伝作者は、フリーダの手紙や日記からひんぱんに引用して、波瀾(はらん)に富んだ人生を本人のことばで語らせる。

 「悲しみを消そうと酒におぼれたけれど、不幸な女たちは泳ぐことを覚えた」とフリーダは書く。彼女は生涯に30回以上の手術に耐えた。ついに壊疽(えそ)になった右脚を切断したときには、「飛ぶための翼があるなら、どうして脚などいるでしょう!」と日記に記している。

 死をつねに見つめながら、生きる希望を失わない彼女の魂に驚愕(きょうがく)し、息を詰めてページをめくる。そのまなざしとことばは最期まで、繊細で剛胆(ごうたん)な魅力を放っている。宇野和美訳。

 ※原題は Frida Kahlo Una biografia

読売新聞
2020年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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