いまこそ「小松左京」を読み直す 宮崎哲弥著

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

いまこそ「小松左京」を読み直す

『いまこそ「小松左京」を読み直す』

著者
宮崎 哲弥 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784140886298
発売日
2020/07/10
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

いまこそ「小松左京」を読み直す 宮崎哲弥著

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 本書を読むのに先立ち、約半世紀ぶりに『果しなき流れの果に』を読み返してみた。グイグイ迫る筆圧の強さは記憶通りであったが、一方でこんなに難解な小説だったのかという驚きを覚えた。その内容を分かった気分で周りに得意気に解説していた昔の自分を思い出すと今更ながら恥ずかしくなる。同作品は、前後1億年を超える時空間の中での二つの勢力による未来から過去への干渉を主軸に描かれるのだが、本書が解説しているように、仏教の説く世界モデルが宇宙像の原型であったり、フッサールの現象学への理解が根底にあったことなどには当時思い至る術(すべ)すらなかった。

 本書は、日本SF界の巨匠小松左京の主要作品群のうち、著者のいうところの“宇宙構造探究系”の作品に焦点を当て、『果しなき流れの果に』を中心に『地には平和を』『日本沈没』『ゴルディアスの結び目』『虚無回廊』などの作品を解題したものである。多方面にわたる著者の知見が総動員され、作品の背後に流れる“小松思想”が余すところなく解明される本書は、読後に深い充実感を与える。小松作品未読の人にとっても格好の手引きとなろう。

 著者は、哲学研究者近内悠太氏の言葉を借りながら、「SFの想像力とは『逸脱的思考』を作品として結晶させるものであり、取りも直さずそれは、世界と出会い直すための文学なのである」と喝破する。近年、地震・津波といった大災害に際しては『日本沈没』が、新型コロナウイルス流行に際しては『復活の日』の先見性が注目を集めた。著者はそれを否定しないが、小松作品からは「さらに物語の表層の奥にある小松左京の思想を読み取って欲しい」と述べる。表題にある「いまこそ」という言葉から、現代を生きる我々が目の前の現実に安易にからめとられないためにも、虚構の世界から現実を相対化し見つめ直すという小松の文学的営為の数々を決して忘れてはならないという強い示唆を感じる。

 ◇みやざき・てつや=1962年生まれ。評論家。相愛大客員教授。専門は仏教思想。サブカルチャーにも詳しい。

読売新聞
2020年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加