サラリーマン球団社長 清武英利著

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サラリーマン球団社長

『サラリーマン球団社長』

著者
清武, 英利
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163912516
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

サラリーマン球団社長 清武英利著

[レビュアー] 久間十義(作家)

◆裏方たちの辛苦と奮闘

 野球好きの読者は“清武の乱”をご存じだろう。二〇一一年オフ、巨人の清武英利GMがコーチ人事を巡って渡辺恒雄会長に反旗を翻した、あの事件である。“ワンマン”に盾突いた清武GMは解任。その後の巨人はご覧の通りである。

 本書の著者は乱の当事者その人。あの乱以後、山一證券を扱った『しんがり』はじめ、端倪(たんげい)すべからざるノンフィクションをものしたが、本書ではついにプロ野球の裏方人生を正面から描いた。巨人GMだった頃の知見や交流がベースになっていて読ませる。

 主な登場人物は、著者同様に他の業界からプロ野球のフロントへと転身したサラリーマンの二人、阪神タイガースの野崎勝義と広島東洋カープの鈴木清明である。いずれも組織の中で黙々と石を積み続けた雇われ社長と常務だ。

 野崎氏は添乗員経験もある阪神電鉄の旅行部長だった。それがタイガースに出向を命じられ、古い体質とOBの圧力、「タイガースには余分な金は持たせない」とした久万(くま)オーナーとの軋轢(あつれき)の中で、奮闘した。彼が先鞭(せんべん)をつけたのはパソコンを用いた米国流のBOS(ベースボール・オペレーション・システム)の導入だ。これは守旧勢力につぶされたが、忘れてならないのは二リーグ制を守るための獅子奮迅の活躍だろう。二リーグ存続はオーナーたちを向こうに回して気を吐いた、彼の存在があったればこそ。

 一リーグ構想に反対したのは、広島カープの鈴木常務も同じだった。鈴木氏はカープのオーナーを務めることになる松田元(はじめ)氏と、東洋工業(現・マツダ)経理部で席を並べた縁で、松田氏にスカウトされた。カープの最大の弱点は金がないこと。球場の観客に売るちくわの仕入れ数に一喜一憂する販売部長に始まり、若手選手をつれて運転手兼賄い役の米国野球留学、ドミニカ共和国のカープアカデミーの建設では半袖短パンで現場監督もやった。それが粒粒辛苦の末、二十五年ぶりの優勝。

 目立たぬ所で球団運営を支える者たちの生き様を含羞とともに描いた本書は、著者の反骨の賜物(たまもの)でもあるようだ。

(文芸春秋・1760円)

1950年生まれ。読売新聞の社会部記者などを経てノンフィクション作家。

◆もう1冊 

清武英利著『トッカイ バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)

中日新聞 東京新聞
2020年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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