橋川文三 野戦攻城の思想 宮嶋繁明著

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橋川文三・野戦攻城の思想

『橋川文三・野戦攻城の思想』

著者
宮嶋繁明 [著]
出版社
弦書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784863292116
発売日
2020/08/30
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

橋川文三 野戦攻城の思想 宮嶋繁明著

[レビュアー] 杉田俊介(批評家)

◆あたたかさ描いた評伝

 今年は三島由紀夫の没後五十年にあたり、様々な特集も組まれているが、その三島に決定的な影響と畏怖を与えたのが橋川文三である。三島や吉本隆明らと同じ「戦中派」と呼ばれる橋川は、膨大な知識をもった政治思想史家であると同時に、優れた批評家でもあり、保田與重郎(よじゅうろう)、北一輝、柳田国男、西郷隆盛など、日本近代史の矛盾を背負った人々――保守とも革新とも、右とも左とも、ナショナルともインターナショナルともつかない人々――の懐深くに分け入った内在的な批評を書き続けた。

 本書は、在野の橋川研究の第一人者による橋川評伝の後編(続編)である。前編(前著)にあたる『橋川文三 日本浪曼派の精神』(二〇一四年)の刊行後の、同人誌「隣人」での連載に加筆修正する形で、ついに宮嶋氏による決定的な橋川評伝が完成した。かつて橋川は日本浪曼派に関わる「すべての発言に耳をかたむけようとした」というが、橋川の教え子である宮嶋氏もまた、橋川のこの方法を橋川自身へと適用していった――この世界で誰かが橋川について語ったならば、そのすべてを聞き逃すまいとするかのように。今後の橋川研究は、宮嶋氏の評伝なしには成立し得ないだろう。

 前著『日本浪曼派の精神』は、おもに橋川のデビュー前の実人生に迫っていくものだったが、本書ではおもに著述家・研究者としての橋川について論じられる。その点では、橋川の思想の全体像を学び知るための、最良の入門書でもある。

 重要なのは、宮嶋氏が、橋川が師・丸山眞男に対する「反措定」「思想的訣別(けつべつ)」を示すために苦闘した点に注目した上で、橋川思想の本質を「あたたかい思想」に求めていることだろう。それは「民衆に、あるいは常民に寄りそう思想」のことだ。三島はかつて橋川の悪魔的なほどの頭のよさ、頭脳の犀利(さいり)を皮肉ったことがあるが、橋川の一貫した「あたたかさ」に注目する宮嶋氏の評伝は、そうした橋川のイメージを修正し、更新してくれるだろう。

(弦書房・2640円)

1950年生まれ。編集プロダクション代表。橋川文三に明治大で師事した。

◆もう1冊 

宮嶋繁明著『三島由紀夫と橋川文三』(弦書房)

中日新聞 東京新聞
2020年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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