“安心”を求めて自由を手放すリスク

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自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋

『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』

著者
池田 清彦 [著]
出版社
宝島社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784299008206
発売日
2020/08/07
価格
891円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

“安心”を求めて自由を手放すリスク

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 新型コロナウイルスとの日常も秋を迎えた。「一億総マスク化」の風景は見なれたが、どこかモヤモヤした気分を抱えたままだ。

 池田清彦『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』のおかげで、その「いやな感じ」の正体が判った。自分も含め日本人全体が思考停止に陥り、「自粛バカ」になっていたのである。

 6月下旬に行われたNHKの世論調査では、「政府や自治体が外出を禁止したり、休業を強制したりできるようにする法律の改正が必要」と考える人が6割以上だったそうだ。著者によれば日本人は科学的な「安全」ではなく、心理的な「安心」を求めるからだという。

 背後にあるのは「ゼロリスクへの信仰」だ。しかし、どんなリスクも絶対にゼロにはならない。ゼロリスクという安心のために自由を手放し、「強権的な措置を可能にする法改正」まで求める。そのリスクに気がつかないことの方が危険だ。

 さらにマジョリティ(多数派)によるマイノリティ(少数派)への「いじめ」についても言及する。ここでも日本人特有の「察する文化」が機能し、大勢としての「空気」が決まればそれに従い、次に従わない者を排除する。いわゆる「自粛警察」が典型だ。

 権力側にとってはコントロールしやすい国民なのだろう。だが、著者の言う「自己家畜化」に抗うことは可能だ。正しい情報をもとに自分の頭で考え、判断し、行動すること。本書はそのための強い味方となる。

新潮社 週刊新潮
2020年10月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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