万人に与えられた権利――『ワトソン力(りょく)』著者新刊エッセイ 大山誠一郎

エッセイ

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ワトソン力

『ワトソン力』

著者
大山誠一郎 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913656
発売日
2020/09/17
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

万人に与えられた権利

[レビュアー] 大山誠一郎(作家)

 ワトソン力とは何か。それは、謎に直面すると、そばにいる人間の推理力を飛躍的に高める特殊能力です(残念ながら、自分の推理力は高まりません)。この力の持ち主である本作の主人公(あるいは狂言回し)は、シャーロック・ホームズの相棒、ワトソンがこの力を持っていて、だからホームズはいつもワトソンを捜査に伴っていたのではないかと考え、この力をワトソン力と名付けました。

 なぜ、こんな妙な力を作品に登場させたかといえば、一つの事件に対しいくつもの推理が披露される、多重推理の趣向をやりたかったからです。

 その場合、名探偵的な人物が初めから決まっているよりは、誰が最後に真相を言い当てるかわからない、混沌とした状況の方が面白い。ですが、登場人物たちが皆、冷静に、論理的に推理をするのは不自然です。そこで考えたのがワトソン力でした。事件現場に主人公とともに居合わせた関係者たちがこの力で推理力を高められ、論理的な推理合戦を繰り広げるというわけです。

 そして、警察が捜査に乗り出したら、事件関係者たちの推理合戦ができなくなるので、事件は毎回、クローズドサークルで起きることにしました(一編だけ例外がありますが)。

 苦労したのは、単調にならないよう、クローズドサークルにバリエーションをもたせることでした。雪のペンション、真っ暗闇の地下室、嵐の島、飛行機、バスジャックされたバスと、さまざまな場所がクローズドサークルになります。また、一つの事件に対して披露される推理のバリエーション、最後に真相を言い当てる人物のバリエーションにも、工夫を凝らしました。

「推理することは、万人に与えられた権利です」と本作の主人公は言いますが、その言葉通り、多種多様な人物が推理を披露します。ぜひお読みいただければ幸いです。

光文社 小説宝石
2020年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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