京都の夜はミステリ談義で更けてゆく――『シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都』著者新刊エッセイ 佳多山大地
エッセイ
『シークレット』
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京都の夜はミステリ談義で更けてゆく
[レビュアー] 佳多山大地(ミステリ評論家)
ミステリを読むのは愉(たの)しい。ミステリのことを話せる人がいれば、なお愉しい―。本書『シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都』は、生まれも育ちも古都京都である綾辻行人が“縁がある”十人の後輩作家を地元に招き、ミステリについてたっぷり語り合った愉しい一冊だ。
まさか「小説宝石」の読者に、綾辻行人のことを詳しく説明する必要はないだろう。一九八七年、当時二十六歳の若さで『十角館の殺人』を引っ提げてデビューしてから早三十三年。世紀を跨(また)いで現代ミステリ界の第一線で活躍を続ける綾辻は、じつに多くの新しい才能を見出(みいだ)してきた名伯楽でもある。本書に登場する後輩作家は、詠坂雄二(よみさかゆうじ)を一番手に、宮内悠介(みやうちゆうすけ)、初野晴(はつのせい)、一肇(にのまえはじめ)、葉真中顕(はまなかあき)、前川裕(まえかわゆたか)、白井智之(しらいともゆき)、織守(おりがみ)きょうや、道尾秀介(みちおしゆうすけ)、そして辻村深月(つじむらみづき)。“縁がある”とは、この十人全員が、デビューの前後に何らかの形で綾辻から〈力添え〉を得た作家たちであるということだ。
本書に収録されたすべての対談に、私、佳多山大地は司会・構成役として参加させてもらった。が、実際の現場において「司会」とは名ばかり。ホスト役の綾辻とゲスト作家の興味深い会話(やりとり)に耳を傾け、対談終了後は美味(おい)しい料理に舌鼓(したつづみ)を打ちつつ歓談に加わる。ああ、一人のミステリファンとして、なんてオイシイ仕事だったろう! ……おっと、もちろん、愉しい宴(うたげ)のあとには多少の苦しさも。対談を記事にまとめるにあたっては、毎回どの話題をカットするかで泣かされたものである。また、読者の臨場感を高めるべく、(突然何かのスイッチが入って)(ためらいを振り切るように)(目が一瞬泳ぐ)などなど、ト書に工夫を凝らした次第。
綾辻ファンにもゲスト作家のファンにも嬉しいのは、本書が豪華オールカラーだということ。鮮やかに主客の個性を捉えた写真を見るだけでもワクワクするし、きっと本書を片手に対談の会場となった京都の名店を巡りたくなるだろう。