ナウシカとかぶってる――『かきあげ家族』著者新刊エッセイ 中島たい子

エッセイ

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かきあげ家族

『かきあげ家族』

著者
中島たい子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913649
発売日
2020/08/19
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

ナウシカとかぶってる

[レビュアー] 中島たい子

 再上映している『風の谷のナウシカ』を観に行ったら、ナウシカが腐海(ふかい)の毒から身を守るためマスクをしていて、客席でやはりマスクをして観ている自分は泣いてしまった―。

 というネットの記事を読んだ家族が触発されて、それを観に行こうと言う。もう何度も観てるから、と最初は乗り気でなかったが、コロナ禍の映画館の状況を見ておきたかったのでついて行った。そして人が少ない清々(すがすが)しい館内でそれが始まると、ほぼオープニングから私はだだ泣きしていた。何度も観てるが、映画館で観るのは初めてで、これは大きなスクリーンで観るべき作品だと思った。画面が小さいとセリフが先に頭に入ってくるので、絵で語られている小さなものや、奥行きに見る世界観を見落とすことになる。全てが見えて初めて『ナウシカ』なのだ。最後まで感動し続けて、マスクはおしめのように涙をいくらでも吸収してくれることも知った。

 初めてと言えば、長編書下ろしという自身初めての試みで新刊を出す。そんな重い仕事ができるか心配で、自分に近しい主人公を設定したら「スランプ中の老映画監督」に落ち着いた。作中の会話には、皆さんがよく知る映画も色々と出てくる。大学時代、映画評論家の品田雄吉(しなだゆうきち)氏の授業を受けていて、そこで観た映画もできるだけ紹介したかった。品田先生はエンタメから実験映画まで分け隔(へだ)てなく、面白いものはなんでも愛する人だった。映画とは特別なものではない、生きるのに必要なものだと教わった。その大切なものが二の次になってしまう今の世界が心配になる。維持させる努力をしなきゃと思う。

 長編小説も映画的というか、笑って泣けるものに仕上がった。とはいえ新境地と言えるほど違うものは書けなかったなぁ、と反省したが、『ナウシカ』を観て帰ってきたらテレビで『未来少年コナン』(同じ宮崎駿(みやざきはやお)演出)を再放送していて、巨匠もけっこうかぶってる、と少しホッとしたのだった。

光文社 小説宝石
2020年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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