男女平等をテーマに活動するジャーナリストが自覚したLGBTQの人たちへの無意識バイアス

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男女平等をテーマに活動するジャーナリストが自覚したLGBTQの人たちへの無意識バイアス

[レビュアー] 治部れんげ(ジャーナリスト)


治部れんげさん

ジェンダー平等を目指して、男性優位社会における問題提起を続けるジャーナリストの治部れんげさんは、常に少数派が感じる困難に向き合ってきた。書籍『虹色チェンジメーカー LGBTQ視点が職場と社会を変える』で彼女が接したのは、LGBTQの人たちの、求職時・職場での困難や課題。それはまさに「多数派の無神経さ」に見過ごされてきた少数派の困難だ、という。そうした無意識バイアスに気付かせてくれた本作の重要性について、治部さんが留学先での経験を踏まえながら説く。

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 15年前、留学先のアメリカで親しくなった女性がいつになく深刻な様子で話した。

「実は私のパートナーは女性で一緒に暮らしている」

 ある日、彼女がパートナーと犬と暮らす家で開いたパーティーに、私も自分の配偶者と一緒に参加した。心地良い一軒家の広いリビングに、入れ替わり色んな人がやってくるのを見ながら、彼女の言葉が頭をよぎった。

「私が女性を好きだということを、伝えている人と伝えていない人がいる」

 当時、私が所属していた大学機関は、女性の高等教育進学や女性研究者育成、フェミニズム活動家の支援をしていた。それでも「中には同性愛について差別的な感情を持っている人もいる」と、冒頭の友人は話してくれた。


村木真紀さん

 村木真紀『虹色チェンジメーカー』を読みながら、何度もこの時のことを思い出した。本書は性自認・性的指向が多様である現実と、それを社会や職場がいかに受容し支援できるかを記している。著者自身のライフヒストリーと企業のベストプラクティスがバランスよく配置され、説得力がある。

 繰り返し書かれるのは、自分の周囲に性的マイノリティーが「いない」というのは誤解だ、ということだ。相手や環境を信用できない状態で、自分の性自認・性的指向をカミングアウトする(打ち明ける)ことはできない。

 言い換えれば、自分の職場や友人・知人に性的マイノリティーが「いない」と思っている人は、安心して打ち明けられる相手だと思われていない可能性が高い。自分のふるまいが差別的ではないか、本書に示された様々な事例を参考にしつつ、振り返ってほしい。

 著者が代表を務めるNPOが手掛けた共同調査は、通算1万人以上の回答から、求職時の困難、職場に差別的な言動があるか等を尋ねている。いずれの回答も、生まれた時に診断された性と性自認が一致している「シスジェンダー」で「異性愛」の人と比べた時、同性愛やトランスジェンダーの人の方が高くなっている。

 多数派の特権とは、少数派が感じる困難や課題を意識せずにいられることだ。ふだん、私はジェンダーに関する問題提起を通じ、男性優位社会における女性の困難について話したり書いたりすることを仕事にしている。男女を問わず多くの人がジェンダーに関する無意識バイアスを持っており、それに気づき改善する必要がある。

 本書は「シスジェンダー」で「異性愛」の女性である私自身が知らずに身に着けていた、多数派ゆえの無神経さに気づかせてくれた。ビジネスに役立つ事例も多い。人権問題について「理解があるつもり」の人にも広く読んでほしい。

小学館
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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