<東北の本棚>原発事故の傷跡伝える

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<東北の本棚>原発事故の傷跡伝える

[レビュアー] 河北新報


『詩集 野焼きの後に』
斎藤久夫[著](鳥の声社)

 南相馬市に住む詩人が7年ぶりに新作を発刊した。東京電力福島第1原発事故で避難を強いられた人々や変わり果てた故郷の姿を通し、深い傷跡が残る福島の今を伝える。
 「船とバスと少年たちと」は福島から沖縄に避難した少年と、異国を目指すスーダンやシリアの難民の子どもの姿を重ね合わせる。英文を巧みに使い、彼らが将来暮らす場所について問い掛ける。
 枯れ草を焼いた野原を意味する「末黒野(すぐろの)」には、詩集の題名である「野焼きの後」の言葉が出てくる。場所は、足尾鉱毒事件による鉱毒の無害化を目的に造られた渡良瀬遊水地。100年前に滅びた村の跡地を歩き、福島の100年後の姿に思いを巡らす。
 帰還困難区域に残された馬の詩では戦時中に従軍した馬をオーバーラップさせ、浪江町の伝統工芸「大堀相馬焼」をうたった詩では地球の裏側まで土を掘るなど、詩人の豊かな想像力が時空を飛び交う。コロナ禍を題材にした近作も収録。最後の「薔薇(ばら)が」は平和の象徴としてのバラをうたい、深い余韻を残す。
 著者は1945年福島市生まれ。元高校教員。「コロナ禍は見えないものと対峙(たいじ)しているという点で原発事故と似ている。皆、苦しんでおり、今詩集を出さなければと思った」と話す。(裕)

河北新報
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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