<東北の本棚>戦後の文化風土を探る

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東北の芸術家たちー人生・仕事を語る

『東北の芸術家たちー人生・仕事を語る』

著者
河北新報社編集局 [編]
出版社
河北新報社
ISBN
9784873414027
発売日
2020/08/01
価格
1,650円(税込)

<東北の本棚>戦後の文化風土を探る

[レビュアー] 河北新報

 風土性豊かな戦後東北の芸術文化は、どんな才能や意志を持つ先覚者に導かれ、培われてきたのだろう。その答えを探るべく、河北新報の文化面で1997年7月、聞き書きシリーズ「談(かたる)」が始まった。約70人が登場してきた同シリーズ初の書籍化である本書は、音楽、美術、文芸の分野から物故者含め18人を選んだ。
 収録した芸術家の7割以上を戦前・戦中生まれが占め、過酷な戦争体験をも創作の糧とした人々がいた。「ヒマラヤ」の代表作がある米沢市生まれの日本画家福王子法林さんは、実家の縁の下に埋めた絵の具を心の支えに、中国戦線から生還した。塩釜市の俳人佐藤鬼房さんは捕虜生活を経て社会性俳句の旗手となった。
 各ジャンルの草創期を背負った人も少なくない。青森県鰺ケ沢町の津軽三味線奏者、山田千里さんは伴奏楽器だった津軽三味線が、圧倒的な存在感の独奏楽器へと変わる過渡期を見届けた。即興演奏で国際的評価を受け「日本の本物のジャズは津軽三味線だ」と誇る。地方オーケストラの雄である仙台フィルハーモニー管弦楽団の前身時代から、創設に尽力した仙台市の作曲家片岡良和さんの述懐も興味深い。
 それぞれが生い立ちや恩師との出会い、修業時代の泣き笑い、名声を確立した仕事を自らの言葉で振り返る。加えて東日本大震災と表現について思いを吐露する場面は、東北で編まれた本書ならではの特長だろう。盛岡市の作家高橋克彦さんは災後の虚無を超え「小説とはもっと重いものだと思うようになりました」と語る。
 物の配置で世界観を演出する洋画家の渡辺雄彦さんは「静物画でも震災や社会的な事象を表現できる」との確信に至った。歌人・評論家の佐藤通雅さん、俳人の高野ムツオさんらの言葉には、被災地の現実を直視し、葛藤しながらも発信を諦めない使命感がうかがえる。(ぐ)

河北新報
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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