編集者の熱意が生んだアカデミズムとしての“BL”
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
BLとは「ボーイズラブ」の略で、男性同士の恋愛や性愛を扱った作品のことを指す。日本の商業誌にBL作品が登場したのは70年代のことだといわれているが、ここ最近は、例えばタイのBLドラマが放送終了後にTwitterでワールドトレンド入りするなど、より広範な盛り上がりを見せている。
そんな折、『六法全書』をはじめ、法律書や学術書の老舗出版社として名を馳せるかの有斐閣から7月に出た新刊が衝撃を与えた。その名も『BLの教科書』。なんと発売前に3刷が決定、その動向はジャンルを超えて多大な注目を集めている。
「そもそもは編者の堀あきこ先生、守如子先生から企画を持ち込んでいただいたことがきっかけです。僕自身にBLの素養があったわけではないのですが、お話を伺っているうちに“これは今の社会に必要な本だ!”と」。担当編集者のひとり、四竃佑介氏は熱く語る。
BLの研究は、性愛表現の受容のされ方にスポットが当てられるため、ジェンダーの視点をはじめ社会学的なアプローチが深く関わってくる。近年は“卒論のテーマにしたい”という学生も増えているが、研究の蓄積は十分にあるのに体系的にまとめられた本がこれまではなかったという。
だからこそ“テキスト”として参照できる本を出す必要性を強く感じ、勢い込んで企画会議に提出したものの、会議ではBLの存在について説明するところからのスタート。「それでもピンとこない社員も多く、議論が停滞してしまったときに、社内から“腐女子(≒BLが好きな女性)”を自認する編集部員が次々に名乗り出て掩護射撃をしてくれたんです」(同)。
結果、形勢は有利に傾き、無事企画了承。刊行数カ月前から情報解禁したところ、各メディアがこぞってニュースにした。書店での評判も上々だ。会議で名乗り出た編集部員の一人で、後に本書の共同担当となった長谷川絵里氏は言う。
「知識をどんどん深めようとする傾向に関していえば、オタクの道とアカデミズムは通ずる。広い意味での学究心ではないかと」