京都に女王と呼ばれた作家がいた 花房観音著

レビュー

6
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京都に女王と呼ばれた作家がいた

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』

著者
花房 観音 [著]
出版社
西日本出版社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784908443527
発売日
2020/07/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

京都に女王と呼ばれた作家がいた 花房観音著

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 ミステリーの女王・山村美紗は、生涯に200冊以上の本を出し、その多くがドラマ化され、高額納税者となってもてはやされた。スポーツカーの運転やクレー射撃を趣味とし、華やかなドレスを身にまといメディアに登場する。2人の娘をもつ美紗だが夫の存在は知られず、晩年隣家に住まった現役の人気作家・西村京太郎がパートナーだと認識されていた。美紗は1996年、帝国ホテルのスイートルームで執筆中に心不全で亡くなる。彼女の人生は小説以上にミステリアスだった。

 京都に生まれ、京城(現在のソウル)で育った美紗。本書によれば、小学3年生の時に書いた作文が、応募2401編から49編の一つに選ばれ『綴方(つづりかた)子供風土記』(1942年)に掲載されたという。内容は、事実を描くのではなく喜ばれることを意識したものだったらしい。また、終戦後引き揚げの際には、栗の中身をくり抜き現金を隠して持ち帰る「トリック」で大人を唸(うな)らせたというエピソードも興味深い。

 父は京都大教授、母方の親族に俳優の長谷川一夫がいる名家に育ち、多くの縁談がもちかけられる中、美紗は同僚の中学校教諭・山村巍(たかし)と結ばれる。中学教諭から母となり、駆け出しの小説家から大ベストセラー作家へ。しかし、賞に恵まれず、次世代の作家が現れれば焦りをみせ、身を削って執筆に没頭する。夫の巍は、美紗と京太郎を同志と認め、自身を律して淡々とサポートを続けた。負にも正にも「女」を意識した女性作家のギラギラとした上昇志向の生き方に、高度経済成長期、そしてバブルと続いた昭和のエネルギーを合わせみた。

 著者は、91歳になる夫ら親族の信頼を得て丹念なインタビューを行い、「文壇のタブー」に真摯(しんし)に分け入る。本書が単なるゴシップ風情と一線を画するのは、同じ小説家として、著者が美紗の存在に一目置いているからだろう。女王を支えた夫の無償の愛に光を当てた力作。

 ◇はなぶさ・かんのん=1971年生まれ。小説家、バスガイド。著書に『花祀(まつ)り』『うかれ女島』など。

読売新聞
2020年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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