京都発・庭の歴史 今江秀史著

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京都発・庭の歴史

『京都発・庭の歴史』

著者
今江 秀史 [著]
出版社
世界思想社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784790717430
発売日
2020/07/17
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

京都発・庭の歴史 今江秀史著

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 京都市の文化財専門職である著者が、庭園の管理修復に携わった経験から、平安時代から現代に至る京都の庭園の見方や歩みを平明に語った書。実務経験と大学院に通って仕上げた博士論文を核とした新聞連載がもとになっている。

 「庭園」の近代用語を不正確とし、庭は大庭(おおば)・坪・屋戸(やど)・島(しま)の四つの基本区分からなることを力説する。大庭は主建築前面の公的な広場、坪は建物・廊下に囲まれた庭、屋戸は建物周辺の余地、島は築山・池や樹木からなる庭をさす。島が今日の庭園のイメージだが、4区分全体から庭をとらえ直すと、確かに新しい発見がある。また、庭園の静態的な様式論よりも、生活のなかでの庭の動態的な使われ方に注目するのが、大きな特徴である。

 4区分の庭の歴史を、行事や季節を楽しむための使われ方から通観する。平安時代には、寝殿造住宅の使われ方のように、庭は随時区画して使われた。中世には、書院造住宅の間仕切りのように、4区分が固定化し、大庭・坪が衰退、島が建物裏手に移り、屋戸がよく使われて石庭が営まれるようになった。島は、眺望・回遊して見栄えを楽しむようになり、池・築山・景石などで権力を表象する空間となった。

 近世には、島が建築・大庭を取り込んで主役となり、林泉と呼ばれる。京都では武家文化の二条城庭園と公家文化の修学院離宮の庭などが相剋(そうこく)する一方、町家では茶室が営まれて庭・露地が展開した。近現代には政治家・実業家や公園による庭園の展開があり、4区分の伝統は失われる。

 本書の魅力と説得力の源は、文化財庭園保護の実体験と具体的な知見であり、現象学による庭園論の論旨はやや難解。強調される所有者・庭師・役人の日常の声は確かに大切であろう。一方、文化財庭園は国民的・学術的な資産であり、現場をよく知る庭園研究者や著者のような行政専門職の意見を十分重んじて保存・活用を進めてほしい。

 ◇いまえ・ひでふみ=1975年、山口県生まれ。京都市役所勤務。人間科学博士。専門は庭の歴史。

読売新聞
2020年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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