言論の不自由 ジョシュア・ウォン、ジェイソン・Y・ゴー著

レビュー

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言論の不自由 ジョシュア・ウォン、ジェイソン・Y・ゴー著

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 日本のメディアでは中国名・黄之鋒(こうしほう)で報道される彼。自らオタクを任じ、日本の漫画とゲームが大好きな若者です。24日、違法集会参加などの容疑で逮捕されました。日本の若者なら経験するはずがない不条理です。

 彼が生まれ育ったのは香港。自分たちの地域が、中国に決定権を奪われ、言論が不自由になっていく様子を目の当たりにしていました。見ないようにする選択肢もあったかもしれない。でも、論理的で弁の立つ彼は、自分たちで状況を変えようとしました。

 その記録が本書です。第1部は彼の幼少期からの話。14歳で活動家団体に参加し、当初は成功を収めます。その後、不合理な選挙制度に対する抗議が大ムーブメントとなった「雨傘運動」を経て、彼らを代表する立法会議員が不当に議席を剥奪(はくだつ)されるまでが語られます。

 第2部は獄中手記の形式で、本書の中心をなします。2017年、違法集会参加などの罪で、彼は少年刑務所に収監されます。刑務所内の待遇のひどさ、他の受刑者たちが育った境遇への同情、読書を通じての思索――。彼自身の目線で書かれた手記は、自由を圧迫される香港の人々の困難な状況をリアルに語ります。

 第3部では、その後の情勢と、私たちのすべきことが語られます。19年に逃亡犯条例改正案に対する大規模デモが広がり、改正案は撤回されました。でも、彼は楽観しませんでした。実際に、本書の原著の刊行後、国家安全法が施行され、彼自身も厳しい状況に立っています。

 本書で知ったことを5人の友人に伝えてほしい、と彼は述べます。日本にいて、ひそかに共感を寄せるだけの私は、我ながらじれったい限りですが、せめてこの本を読者に紹介し、彼の苦しみを追体験してほしいと願います。

 本書は主に共著者のゴー氏によって英語のノンフィクションにまとめられたと推察します。中里京子氏の訳は分かりやすく自然です。

 ◇Joshua Wong=1996年生まれ。香港の民主化団体「学民思潮」の元リーダー。本書は初の英語による著書。

読売新聞
2020年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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