最後のマネージャーが明かす「ちあきなおみ」の全て

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ちあきなおみ 沈黙の理由

『ちあきなおみ 沈黙の理由』

著者
古賀 慎一郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103535416
発売日
2020/08/26
価格
1,485円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

最後のマネージャーが明かす「ちあきなおみ」の全て

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 歌手にはそれぞれ、代表作と呼ばれるものがある。ちあきなおみの場合、多くの人が挙げるのが『喝采』だろう。女性歌手が恋人の訃報に接しながらもステージに立つという内容の曲だ。しかも聴き手が勝手にちあきの「実人生」と重ねることで、一種特別な作品となっている。

 ちあきが『雨に濡れた慕情』で歌手デビューしたのは1969年。21歳だった。独特のハスキーボイスと抜群の歌唱力で、その後も『四つのお願い』『夜間飛行』『黄昏のビギン』『星影の小径』などのヒット曲を送り出してゆく。

 夫である俳優の郷えい治が亡くなったのは92年秋のことだ。それをきっかけに、ちあきは芸能活動を休止してしまう。28年が過ぎた現在も、いわば「生ける伝説」のままだ。

 著者は最後のマネージャーとして、ちあきと接してきた人物である。この本を手にする者が知りたいことは二つに集約されるはずだ。まず「なぜ表舞台から消えたのか」であり、もう一つが「歌手としての復帰はあるのか」。その答えは確かに本書の中にある。いや、長年続く世間の問いや憶測に答えるために、著者が本人に代って書いたと言っていい。

 最も印象に残るのは、ちあきにとって郷が自分の全てであり、ひたすら郷のために歌い続けていたという事実だ。郷もまた、ちあきが「心から歌いたい歌」を歌い続けられることに命を懸けていた。郷が闘病生活に入ってからの、ちあきの献身的な看病は想像以上だ。さらに彼を失った悲しみの深さも伝わってくる。著者に語ったという「ちあきなおみは、もういないのよ」の言葉が重い。

 読み進めるうち、どうしてもちあきの『冬隣』が聴きたくなった。

「地球の夜更けはせつないよ/そこからわたしが見えますか/見えたら今すぐ/すぐにでも/わたしを迎えにきてほしい」という歌詞が切ない。だが、ちあきの歌声はどこまでもやさしく、そして澄んでいる。

新潮社 週刊新潮
2020年10月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク