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謎ときと人間的興味の二つが合致 見事なまでの作品世界
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
毎年、『このミステリーがすごい!』のアンケート締め切りの前月は、各社がまるで駆け込み訴えのようにその年の隠し玉というか、絶対的エースともいうべき作品を放り込んでくるので、読む方にしてみれば、楽しみでもあり、苦しみでもある。何しろ数が多いのだ。
その中でアンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』(山田蘭訳)は、昨年翻訳刊行された、元刑事の私立探偵であり、かつ、ロンドン警視庁顧問でもあるダニエル・ホーソーンと作者自身が登場する『メインテーマは殺人』(山田蘭訳、創元推理文庫)に続くシリーズ第二弾。今回は、離婚弁護士プライスが自宅でワインのボトルで頭を殴打され、殺されるところからはじまる。最初は非常にシンプルな事件に見えた。が、捜査をはじめて間もなく、過去に、プライスと同級生仲間のリチャードスン、テイラーの三人が、恒例の洞窟探検をしていたさ中のこと、リチャードスンが事故死(?)していたのが分かる。さらに、プライスの死に続いて、テイラーも、キングス・クロス駅で地下鉄に轢かれ変死を遂げる。
これで、くだんの探検に加わった三人が全員死亡したわけで、謎はあっという間に広がっていく。そして、ミステリーなので詳述はできないが、この謎が広がっていく背景には、作中人物の人生の広がりが明確に記されているわけで、ここで、謎ときの興味と人間的興味の二つが合致。見事なまでの作品世界を創造している。
ラストには一転する犯人像。そして悔やしいことに、読了して、もう一度、ペラペラとページを繰っていくと、解決への伏線が至るところに張られていたことを知る。
その端正なまでの美しさに改めてこの作家の技量の確かさを見せつけられる。
本の帯には『カササギ殺人事件』(山田蘭訳、上下巻、創元推理文庫)の続篇が刊行されると記されている。今から喧伝するということは、来年は、二冊の刊行になるのか、とはやる気持ちを抑えられない。そのくらいこの著者のもたらしてくれる時間への期待は大きいのだ。