『星を継ぐもの』
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン [著]/池央耿 [訳]
- 出版社
- 東京創元社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784488663018
- 発売日
- 1980/05/22
- 価格
- 770円(税込)
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SFにしてミステリー 月面の死体を巡る見事な謎解き
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「月」です
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アーサー・C・クラーク『渇きの海』を読んだころのことを思い出す。いまでも覚えているのは、帰宅途中に空を見たら月がぽっかりと浮かんでいたことだ。そうか、セレーネ号はあそこで遭難したのか。SFに熱中していたころは、いつもそんなふうに思っていた。
この機会に『渇きの海』を再読したいと思ったが、残念ながら今は入手できない。そこで『渇きの海』の再読は後日の課題として、今回のテキストは、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』にしたい。こちらも『渇きの海』に負けず劣らず面白いのだ。
月面で、真紅の宇宙服をまとった死体が発見されるのである。調査の結果、彼は五万年前に死亡していた―という驚くべき事実が判明する。
『星を継ぐもの』が素晴らしいのは、この死体は何であったのか、という謎を解く、ただそれだけの小説であることだ。SFにしてミステリー、と言われるのも、『星を継ぐもの』のそういう構造にある。
重要なのは、木星の衛星ガニメデで、地球のものではない宇宙船の残骸が発見されることで(これも素敵な謎だ)、最終的にこの『星を継ぐもの』が三部作(さらにその続篇)というシリーズになっていくことも付記しておきたい。
それはともかく、とりあえずは『星を継ぐもの』一作でいい。五万年前に死んだ人間が、なぜ宇宙服を着て月で眠っていたのか――このミステリーが見事に解かれるラストに脱帽。