政治、官僚、マスコミ……なぜこれほどお粗末なのか? 高橋洋一と原英史が問題の核心を徹底的に論じ合った一冊

レビュー

775
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国家の怠慢

『国家の怠慢』

著者
高橋 洋一 [著]/原 英史 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106108723
発売日
2020/08/19
価格
814円(税込)

書籍情報:openBD

異色の元官僚が描き出す“異次元ワールド”

[レビュアー] 門田隆将(作家・ジャーナリスト)


なぜ政治や官僚、そしてマスコミはこれほどお粗末なのか?(※画像はイメージ)

門田隆将・評「異色の元官僚が描き出す“異次元ワールド”」

医療は崩壊寸前にまで追い込まれ、オンラインでの診療・授業は機能せず、政府の給付金さえスムーズに届かない。新型コロナウイルスは、日本の社会システムの不備を残酷なまでに炙り出した。なぜ政治や官僚、そしてマスコミはこれほどお粗末なのか? この問題の核心を高橋洋一と原英史が語り合った対談本『国家の怠慢』が刊行。本作について作家・ジャーナリストの門田隆将さんが読みどころを解説した。

 * * *

 小説、エッセー、ビジネス書、ノンフィクション、専門書……と、さまざまなジャンルの中で、対談本ファンが多いことには驚かされる。同じ人物の本でも、力のこもった分厚い論理的な書籍より、対談を好む読者が多いのは、何といっても「読みやすさ」からである。

 その意味で、霞が関を代表した“日本の頭脳”ともいうべき二人の元官僚が、日本が抱える問題を「国家の怠慢」という視点で、わかりやすく、かつ本質をずばりと突き、しかも、ざっくばらんに、多くのテーマを噛み砕いて私たちの前に「提示」してくれた本書の意義は際立っている。

 片やマスコミでも引っ張りだこの高橋洋一氏。東大理学部数学科・経済学部経済学科を卒業し、自称“変人枠”で大蔵省に入った異色の元官僚。安倍晋三首相のブレーンとされるが、財務省に完全に取り込まれたかたちの首相には厳しい批判も浴びせ、是々非々の姿勢を貫いている。

 片や原英史氏は、東大法学部を卒業後、米シカゴ大学院を修了、通産省で勤務したエリート中のエリート。省内だけでなく内閣安全保障・危機管理室や行革担当大臣補佐官としても活躍し、退官後は、政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理などを務めた“ミスター・規制改革”である。

 日頃、歯に衣着せぬ二人が縦横無尽に話し合った中身が面白くないはずはない。ちなみに、私は六月末、武漢肺炎に関して中国の隠蔽の実態や、この感染症襲来に全く無策だった安倍政権を告発した『疫病2020』を出したばかりである。それだけに、特に第1章の「コロナで見えた統治システムの弱点」は実に興味深かった。

 武漢肺炎の情報や現地の凄まじい医療崩壊の実態も把握できなかった安倍政権。そのせいで感染国・中国からの水際対策に失敗したことは周知のとおりである。国内の医療体制は崩壊寸前まで追い込まれ、政府の給付金さえスムーズに届かず、ただ右往左往する姿を国民に晒した。

 やはり、多くの改革を手がけた二人の元官僚は安倍政権に厳しい評価を下している。二人は、日本の社会システムの脆弱性をコロナは暴き出した、と見ている。

「日本のやり方は全部平常時の対応なんですよ。だから、コロナの話はすごく大変だと分かっていたのに、それでも、3月は予算を参議院で審議中だからといって何もしなかったじゃないですか」と高橋氏が一刀両断すれば、原氏は、「官僚主導の問題とは何かというと、平時の安定した環境で、ちょっとずつ改善していけばいいというようなときには官僚主導はうまく機能しますが、緊急事態が起きて前例なき決断や大転換をしないといけないときには対応ができないのです」と分析する。

 情けないことに日本の統治機構は、あくまで「平時」のものであって、コロナのような「非常時」に対応できるものではなかったことを二人は強調する。全く同感だ。

 ちなみに、私はエリートの“お坊ちゃま”官僚たちや二世議員たちで占められている日本の統治機構に「戦時の対応」など、ハナからできるとは思っていなかった。コロナで日本が示した体たらくは、むしろ当然であって、不思議でも何でもなかった。

 二人の話は、さまざまなジャンルに“飛び火”する。本書で明かされた新聞記者のレベルの低さには、あらためて驚愕した。原氏への名誉毀損で訴訟にまで発展している毎日新聞記者に至っては、悲惨な表現をされている。原氏サイドが送った回答書を読み間違え、「回答文書を単に読み間違えているだけなのですが、それで記事にしてしまったらしきことも大体わかってきた。だから、最低限の日本語能力のある人を取材に出してよ、という話だったと思っています」と暴露されてしまった。

 また高橋氏はモリカケ問題でも、

「私は随意契約にしたのがおかしかったということを言ってるけど、マスコミの人は全然そういうのがわからないみたいですね。あれは、随意契約にして籠池さんみたいな人が相手だったら、もう競争入札でやり直すしかないという案件ですよ。どうしてこんなことをしてしまったのかというと、相手が教育関係者だからでしょう」

 高橋氏は、籠池氏が教育関係者だったことで逆に齟齬が生じたことを指摘し、本質を語っている。もし、教育関係者ならば、

「そんなところでたてついて変な風評がたっちゃったら、役所のほうだって学校設置認可に、二の足踏んじゃいますから。そうなったら困るから教育関係者はトラブルを起こさないようにするし、役所は平気で随意契約をやる。しかし、実際にトラブルになったら、もう競争入札でやるしかない。そこがこの問題の本質です」

 それができなかった近畿財務局の判断ミス、愚かさを暴露するのである。

 かくて本書の特徴は、一般の人間からはとても垣間見えない“異次元ワールド”ということになる。その高度な世界に分け入ってみたい方は、是非、ご入場を。

新潮社 波
2020年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加