『アジアをめぐる大国興亡史 1902~1972』中西輝政編著

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アジアをめぐる大国興亡史 1902~1972

『アジアをめぐる大国興亡史 1902~1972』

著者
中西 輝政 [著、編集]
出版社
PHP研究所
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784569847030
発売日
2020/09/07
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『アジアをめぐる大国興亡史 1902~1972』中西輝政編著

[レビュアー] 岡部伸(産経新聞論説委員)

 ■同盟破棄招いた覇権争い

 日本は海洋国家と結ばれたとき繁栄し、大陸国家と結んだとき、苦難の道を歩んだ。アジアの大国に押し上げた「日英同盟」の破棄は、痛恨の極みだ。

 編著者は「日英同盟」破棄は、英米が展開した世界覇権争いの副産物だったと説く。そして、英国が第一次世界大戦で借りた巨額の戦債を盾に米国から圧力を受け、金融を媒介とした英米の覇権交代が日本の命運、ひいては東アジアの国際秩序に影響を与えたと解説する。

 本書では、編著者と門下生が日英同盟締結からアジアでの大英帝国の消滅までを論考した。

 とかく英米は、価値観を共有する「特別な関係」の兄弟国とされるが、編著者は1920年代の米英対立は、17年に米国が金融で英国を圧迫する力を握ったことで、(1)海軍力(2)石油(3)天然ゴム(4)金融-で紛糾し、米国の金融支配力に屈した英国が日英同盟破棄(23年)という歴史的な対米譲歩に踏み切らざるを得なかったと指摘する。

 その証拠として英国は日英同盟破棄後の30年代、独自に日本と中国の仲介役となり、財政改革や幣制改革を手がけようとして、日本を締め上げる米国と完全に乖離(かいり)していた。確かに英国立公文書館には30年代、日英陸軍が極東で対ソ諜報で協力を重ねた機密文書がある。満州事変では、チャーチルはじめ英政界は日本を支持した。

 「英米の一体化」が出来上がるのは、チャーチルが戦時内閣の首相に就任した40年5月。ナチス・ドイツが欧州ほぼ全土を制圧し、連日連夜続くロンドン空襲で、風前の灯となった英国は米国に泣きつくしかなかった。真珠湾攻撃の10カ月前の41年2月、米国の情報士官がブレッチリーパーク(英政府暗号学校)を訪れ、暗号解読協力という「特別な関係」を始めたが、英国からすれば、「嫌々ながらの特別関係」だが、米国が武器や食料の支援を行い、「パックス・アメリカーナ」が確立したと編著者は指摘する。

 大陸国家ロシアの拡大を海洋国家の日英が阻止した日英同盟の破棄から約100年。覇権志向を強める大陸国家中国の脅威に、あらゆる分野で協力して新たな同盟を目指す日英にとって覇権交代に伴う英米の紛糾は少なからぬ意味を持つだろう。(PHP研究所・1800円+税)

産経新聞
2020年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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