礼とは何か 桃崎有一郎著

レビュー

7
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礼とは何か

『礼とは何か』

著者
桃崎有一郎 [著]
出版社
人文書院
ISBN
9784409520833
発売日
2020/08/07
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

礼とは何か 桃崎有一郎著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 「お礼」や「礼儀」など「礼」のつく言葉や実践は身の回りに満ちあふれている。だが、そもそも礼とは何かと問われると答えられる人はきわめて少ないはずだ。

 本書は、日本古代・中世の礼制と法制を専門とする著者が、真正面からこの疑問に取り組み、一般書としてわかりやすく解説したものである。礼概念の原点とも言うべき『礼記』とその注釈書に直接挑んで、礼概念の全体像を捉え提示する。

 礼は社会に秩序を与えるものという理解から入るのがわかりやすい。そこでは「礼」は、人の行動の外形を規定することを通して、人と人との間で、適切な心情を制御する統治の技術として現れる。

 しかし礼は決して人間関係に尽きるものではない。礼の思想は、天を中心として万物が階層的に秩序づけられているという壮大な世界観を中核に持つもので、その摂理に従う行いが「礼に適(かな)う」ものと見なされるのである。

 著者も言うように、礼が確立された周の時代は厳格な身分社会であった。つまり、礼による統治はそうした身分社会の維持にとって好都合なものであったわけだ。現代社会の背景はそれと大きく異なっているから、礼の思想を現代にそのまま持ち込むことは不可能だ。

 とはいえ、礼の威力は強力で現代人の生活にも大きな影響を与えている。それはたとえば、敬意を示す振る舞いは勿論(もちろん)のこと、ご飯を左、味噌汁(みそしる)を右に置く習慣にも及ぶ。これは『礼記』の規定が今日にまで続いているものというから驚きだ。

 形式も内容も大きく変化しているとはいえ、今日でも礼がこのような強い生命力を持っているのは、行動の「外形」にかかわっていることによるのかもしれない。外形は内部と相互的関係にあり、内部をも整える。こう考えると、礼の理解は、現代においても、われわれの制度がどのように維持され、変化するのかという問題とも強く関連している。

 ◇ももさき・ゆういちろう=1978年生まれ。高千穂大教授。著書に『中世京都の空間構造と礼節体系』など。

読売新聞
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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