土に還る 中島美千代著

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土に還る

『土に還る』

著者
中島美千代 [著]
出版社
ぷねうま舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784910154077
発売日
2020/07/22
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

土に還る 中島美千代著

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 土は汚れていて、価値ないものと考えられがちだ。しかし生命が生まれ育つ、生命の苗床でも、生の勤めを終えて戻る場所でもある。著者は自分の故郷、福井県の山村での火葬の風習を調べ上げ、土との結びつきを示している。

 終活という言葉をよく見かける。死後のあり方はいつも重要なテーマだ。樹木葬、自然葬を望む人も増えてきた。世俗化が進展し、宗教離れが顕著な現代でも葬られ方は大事である。

 コロナ禍のなかにあって、密葬や家族葬、さらに直葬も増えている。野辺での火葬は手間暇がかかる。廃れつつあるが今でも福井の山村には火葬場がいくつも残っている。なぜなのか。

 火力を上げるために炭が2俵、たくさんの薪(まき)、火葬に関わる隠坊役(おんぼうやく)が6人、2時間かかり、面倒も多い。隠坊役を探すのも簡単ではない。にもかかわらず、野辺送りは守り続けられている。この謎解きに本書の狙いがある。

 その土地には浄土真宗の伝統があった。この地は一向一揆の舞台であり、篤(あつ)い信仰心の真宗門徒の土地である。限界集落になり老人しかいない集落にも、門徒が集まる道場が今でも残っている。歴史は今も生きている。

 死は現代社会では日常生活から切り離され見えないものになった。かつては村のはずれの焼き場で火葬がなされ、弔いの様子は人々の目につくところにあった。今では葬儀業者に任せ、ほんの一部だけを目にすることができる。

 野辺送りと現代の葬式の違いは様々に考えられるが、その土地との結びつきだ。「おれは村で焼いてほしいなあ。この村の土になりたいで」と生きているうちに語る村人がいる。村のジサマたちの言葉は懐かしさを醸し出す。

 本書に記されている野辺の風習の具体的な描写は生々しいが、現代の隠蔽(いんぺい)された人間の死にざまを伝える点で大事なことを思い出させる。

 死者を生者とともに住まわせ続けられる人間空間こそ、世間なのである。

◇なかじま・みちよ=福井市生まれ。作家。著書に『青木繁と画の中の女』『釈宗演と明治』など。

読売新聞
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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