京都・六曜社三代記 喫茶の一族 樺山聡、京阪神エルマガジン社編集部著

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京都・六曜社三代記 喫茶の一族

『京都・六曜社三代記 喫茶の一族』

出版社
京阪神エルマガジン社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784874356296
発売日
2020/08/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

京都・六曜社三代記 喫茶の一族 樺山聡、京阪神エルマガジン社編集部著

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 京都を訪れるたび、喫茶店に立ち寄る。京都には数多くの老舗喫茶店がある。常連とおぼしきお客さんがやってくると、店員さんが無言のまま、新聞を差し出す。そのお客さんはどの新聞を読むのか、どんなコーヒーが好みなのか、店員さんはすっかり把握しているようだ。カウンターの端っこに佇(たたず)んでいるだけで、お店に積み重なってきた時間が伝わってくる。

 河原町通にある「六曜社」も、京都を訪れるたびに出かけたくなる老舗のひとつだ。そんな「六曜社」の歴史が、2015年に京都新聞で短期連載されたのち、大幅な加筆を経て一冊にまとまった。初代店主・奥野實(みのる)が、終戦直後に満州(現中国東北部)でコーヒーを出す屋台を構え、妻となる八重子と出会ったところから、物語は始まる。そこから京都に引き揚げ、「コニーアイランド」という喫茶店を営んだのち、1950年に「六曜社」を始める。「コニーアイランド」も、「六曜社」も、もともとそこにあった喫茶店の名前をそのまま引き継いだというのが、店主の人柄をあらわしているようで面白い。

 「六曜社」は、親から子、そして孫へと引き継がれてゆく。その歴史の向こうに、京都・河原町通の変化や、世相のうつろいも仄(ほの)見える。「喫茶の一族」といえども、時代が変われば、そして人が違えば、理想とする喫茶店のすがたも三者三様だ。三代記として綴(つづ)られる「六曜社」の物語は、連続テレビ小説のモデルになりそうなほどダイナミックである。

 本書を読むと、京都に出かけたくなるのはもちろんのこと、自分が暮らす町にある、小さなお店にも足を運びたくなる。京都ほどの歴史がない町にも、三代も続いていないお店にも、創業された最初の一日があり、今日に至るまでの毎日がある。わたしたちが日常的に利用している一軒一軒にも歴史があり、そこを切り盛りする店主の人生があるのだと、そんな当たり前のことに気づかせてくれる一冊だ。

 ◇かばやま・さとる=1974年生まれ。京都新聞で本連載を執筆し、現在は同紙文化部編集委員。

読売新聞
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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