どこにでもあるケーキ 三角みづ紀著

レビュー

6
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どこにでもあるケーキ

『どこにでもあるケーキ』

著者
三角みづ紀 [著]
出版社
ナナロク社
ISBN
9784904292952
発売日
2020/08/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

どこにでもあるケーキ 三角みづ紀著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 38歳の詩人が13歳の気持ちになって書いた33編は、あのころの儚(はかな)く尊い1年を描く。

 「なにかになりたい

  でも

  なにかがわからない」

 ありふれているようにも、特別なふうにも思える、大人と子どものあいだの時間が、柔らかく、しかし心を射抜く表現で切々と綴(つづ)られていく。

 「死んだことがないから

 死ぬことがとてもこわい」

 思春期の少女は、つぼみでありながら、既に整っているかに見える。そのあいまいな不安を父母と飼い猫ぽっぽ、万年筆や町の空気が支える。

 では、タイトルの意味は? 画、装丁、造本、すべてが宝物としか言い表せないこの詩集を手にとってほしい。

 20歳のころ膠原病(こうげんびょう)を患った詩人はこれまで多くの賞に輝き、写真や音楽と「あらゆる表現を詩として発信」する。

 別の本によれば彼女は実際に13歳だった時も詩を書き、翌年に新聞へ投稿し始めた。四半世紀を経て、切るごとき鋭さだけではなく、やさしい目で当時に戻れたのだろう。

 この詩集は強くないけれど弱気にはならない。何度でも世界をやりなおす力になる。(ナナロク社、1700円)

読売新聞
2020年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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