人生最大のテーマは“繁殖” サバイバル登山家の愉快な生態

レビュー

3
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サバイバル家族

『サバイバル家族』

著者
服部 文祥 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784120053368
発売日
2020/09/23
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

人生最大のテーマは“繁殖” サバイバル登山家の愉快な生態

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 服部文祥は食糧を現地調達するサバイバル登山家として知られる。著書のタイトルにも「サバイバル」という語が含まれるものが多い。現代日本で「生き残る」というのはたいがい、自分が死なないことを前提にした比喩でしかなく(クビにならないとか選考に残るとか)、まあのんきなものだが、著者のサバイバルは生命の運営そのものを意味している。人間のルールよりも生命のルールを尊重して生きている。

 今回のテーマは家族。家庭の中でもサバイバルとは見上げた根性だが、巻き込まれた家族もサバイバルを強いられていた。この本は、まだそれほど親しくもない女性の結婚話に割り込み、略奪プロポーズするところから始まる。結婚して三人の子どもが生まれ、動物も次々に参加してにぎやかさを増す、繁殖活動の記録である。

 著者は繁殖(生命の継承)を人生最大のテーマだと思っている。お笑いエピソード満載でも本人は真剣だ。著者の真剣とは、人間社会の「空気」なんか読まずに生き物として正しいと思うほうへ動くことだから、そこにくいちがいの喜劇が出来する。たとえば、妻の出産に立ち会うため病院に書類を提出した時。立ち会い希望の理由を書く欄に〈スペースが許す最大の文字で「見たいから」と書いて〉しまうが、人間社会はそんなふざけた理由を認めはしない。「ともに経験」「家族の絆」など空疎な言葉をちりばめて再提出すると許可される。この本は、こうした二度手間を惜しまない(拒絶されても一度は自分の信念を伝える)著者を見て自分を鼓舞するためにある。同調圧力も予定調和もくそくらえだ。

 三人の子も成長し、家族の膨張がいったん完了してこの本は終わる。生きることをシンプルにするための闘いは、まじめだからこそ純粋に可笑しい。できるだけ庭でウンコする著者とその家族の、人生の安寧を願わずにいられない。

新潮社 週刊新潮
2020年10月22日菊見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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