『幻のアフリカ納豆を追え!』
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探検ジャーナリストがアフリカと韓国に納豆を追う
[レビュアー] 都築響一(編集者)
まだまだ気楽な旅行ができないご時世だからこそ、濃厚な旅行記が読みたくなる。高野秀行さんはいま、新刊がもっとも待ち遠しい探検ジャーナリストで、今回はアフリカと韓国に納豆を追う!探検の記録。前著『謎のアジア納豆』に続く第2弾だ。
探検、というとかつては「ひとがなかなか行けないところに行く」ことだったが、そういう場所はいまの世界にもう、ほとんどない。いま探検とは、「ひとが気にも留めないことを世界の果てまで追いかける」ことではないかと思うが、納豆もそうした「なんでまた!?」と突っ込みたくなるテーマだろう。
「納豆、大好きです!」という外国人がいると、日本人はオーと驚きながらも微妙な表情になったりする。それは高野さんが出会ってきた納豆世界の民――韓国、中国南部から東南アジア内陸部、ヒマラヤに至る南アジア、ナイジェリアやセネガルなど西アフリカ――に共通する感覚だそう。その納豆=自国に特有の食材という意識を、高野さんは「手前味噌ならぬ手前納豆」と表現する。調査の過程で、文献資料がなかなか見つからないことを嘆いているが、珍しさのかけらもない、あまりにもふつうの日常食への視線。そういうプロが手をつけない領域に飛び込んでいくのが、在野の探検者の役割でもある。
納豆キライ! というひともいるだろうが、本書は納豆を足がかりにした旅行記なので、読者は高野さんと一緒にアフリカで砂埃にまみれたり、真冬の韓国で熱々の納豆汁にほっこりしているうちに、いろんなところに連れて行ってもらえる。そして、その堅すぎず柔らかすぎずの文章がなにより魅力的。石鍋で供されるチョングッチャン(韓国の納豆汁)を、「『おまえ、俺のことを知ってるか!?』と言わんばかりにグツグツと激しく煮え立っていた」なんて書けるひとの本が、おもしろくないわけあるだろうか!