発想ひとつで勝負したSF黄金時代の味わいを楽しめる短編集

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発想ひとつで勝負したSF黄金時代の味わいを楽しめる短編集

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 20世紀半ばのアメリカSF黄金時代、短編の王様はアイディア・ストーリーだった。ひとつの奇抜な発想を核に話をまとめて鮮やかなオチをつける。ロバート・シェクリイ、ウィリアム・テン、フレドリック・ブラウンなど、数々の名匠が腕を競った。日本では、星新一、小松左京、筒井康隆らの初期短編がそれにあたる。

 このスタイルを今も守り続ける“老舗の味”の短編作家が草上仁。書籍デビューから5年の間に14冊のSF短編集を出したあと、四半世紀あまり短編の書籍化が途切れていたが、昨年、ハヤカワ文庫JAから、溜まりに溜まった〈SFマガジン〉掲載作を集めた『5分間SF』が出るとたちまち重版。その余勢を駆って第2弾『7分間SF』が出たのに続いて、今度は〈SFアドベンチャー〉と〈野性時代〉掲載の18編に新作1編を加えた作品集『キスギショウジ氏の生活と意見』(日下三蔵編)が刊行された。

 表題作は、駅の公衆トイレで、五つ並んだ個室のうち左から二つ目のドアがいつも必ず閉まっていることに気づいてしまった男の話。「お父さんの新聞」は、朝、花を出し忘れたせいで“新聞蝶”を逃がしてしまった男の子の冒険物語。「公聴会」では、造物主が製造物責任を厳しく問う人間たちに吊し上げを食う。ジャンルはさまざまだが、ワンアイディアの切れ味は共通。昔ながらのSFの味が懐かしい人はぜひ。

 一方、今のSFの味を知りたい人は、柴田勝家の第1短編集『アメリカン・ブッダ』(ハヤカワ文庫JA)をどうぞ。こちらの特徴は文化人類学(民俗学)×テクノロジー。巻頭の秀作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」では、VRの中で一生を過ごす少数民族の実態が調査報告風に語られる。対する『うどん キツネつきの』(創元SF文庫)は、先ごろ芥川賞を受賞した高山羽根子のデビュー作品集。第1回創元SF短編賞佳作を受賞した表題作は、ペットを軸にした三姉妹の日常から、最後に奇妙な光景が浮かび上がる。デビュー当時から意外と作風が変わってないことがよくわかる。

新潮社 週刊新潮
2020年10月22日菊見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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