ダイナミックに分析 世界と日本のコロナ
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
新型コロナによる犠牲者は、ついに世界で百万人を超えた。なぜかくも巨大な被害が発生したのか、拡大を防ぐ手立てはなかったのか。『新型コロナから見えた日本の弱点』は、誰もが思うこの疑問に鋭く切り込んだ一冊だ。著者は気鋭のジャーナリストにして医師、WHOのスタッフでもあった村中璃子。それだけに、数多いコロナ関連本の中でも、本書の迫力は群を抜く。
歴史を見れば分かる通り、パンデミックの被害は多くの戦争を軽く上回る。であれば感染症対策は国防の一環として捉えられるべきだ。著者は、米国の疾病対策予防センター(CDC)を、感染症対策を包括的に担う「諜報機関」であると位置づける。その行動範囲と能力は驚くべきものだ。
そのCDCを擁する米国が、コロナには無残な敗北を喫した。トランプ政権は、CDCの海外での感染症関連予算を大きく削っていたのだ。米国が、世界が支払った代償はあまりに大きかったというしかない。
コロナ禍の中で大きく信頼を失墜させたWHOに対しても、著者の鋭いメスが入る。中国への忖度が情報の共有を阻み、対策の遅れをもたらしたことは事実のようだ。世界は新型ウイルスと戦える資源を持ちながら、それを活かせなかったのだ。
高度な安全設備を備えたウイルス研究施設を持たない、実に心もとない日本の現状にも、著者は重要な提案をしている。感染症対策の今後を考える上で、必読の一冊だろう。