イギリス海上覇権の盛衰 上・下 ポール・ケネディ著

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イギリス海上覇権の盛衰 上

『イギリス海上覇権の盛衰 上』

著者
ポール・ケネディ [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120053238
発売日
2020/08/07
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

イギリス海上覇権の盛衰 下

『イギリス海上覇権の盛衰 下』

著者
ポール・ケネディ [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120053245
発売日
2020/08/07
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

イギリス海上覇権の盛衰 上・下 ポール・ケネディ著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 世界的ベストセラー『大国の興亡』の著者として有名なポール・ケネディが、まだ30代だった頃の1976年に著した出世作の初邦訳である。世界の海を制したイギリス海軍の盛衰が詳細に描かれる。『大国の興亡』は、本書の拡大版であった。原著は、70年代のアメリカの覇権が問い直されていた時期に出版され、歓迎された。著者は、この本の執筆後、イギリスからアメリカのエール大学に移籍し、今日に至っている。

 著者が2017年版の原著に付した長い「まえがき」が興味深い。21世紀になって、力の衰えが著しいアメリカの制海権が、新たな超大国・中国の海軍力の挑戦を受けている。だからこそ、米中の専門家がイギリス海軍の盛衰に関心を持って学んでいる、と著者は言う。

 ただし著者は、単純に歴史は繰り返されるかのような安易な主張はしない。時代背景や政治条件が異なるからだ。アメリカはイギリスを模倣すべきと説いた「シーパワー」論で有名な戦略史家のマハンを、著者は批判する。海洋権力の重要性を説いたマハンは、19世紀末に、アメリカだけでなく、日本などでも絶大な影響力を持った。だが、その歴史観には短絡的な面があった。同時代のイギリスでは、マッキンダーの「地政学」が、むしろ大陸の「ランドパワー」を警戒させる理論を提示していた。著者は、両者それぞれの限界を論じる。海軍は、陸軍や空軍と組み合わされて位置づけを変えるからだ。

 著者が特に強調するのは、海軍力と貿易などの経済問題の結びつきだ。「イギリスの海軍力の盛衰とイギリスの経済力の盛衰は、常に密接な関係を持つものであった」。この洞察は、現代世界でも深い意味を持つものだろう。

 流れるような訳文が読みやすい。「いつかこんな本を訳してみたい」とずっと思っていた、その願いがかなった、と「あとがき」で打ち明ける翻訳者の思いも熱い。山本文史訳。

 ◇Paul M. Kennedy=1945年、英国生まれ。米国エール大教授。同大国際安全保障研究所長なども務める。

読売新聞
2020年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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