日本マンガ全史 澤村修治著
[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)
日本漫画の全体像を、歴史教科書のような客観性と明快さをもって記述した一冊です。約450ページの本文に、年表もついています。
つねづね、漫画について偏った知識しかないことを痛感していた私は、受験勉強をするように熟読しました。断片的に聞きかじっていた、漫画についてのあやふやな知識が、すっきりと整理された気がしました。
何しろ、説明に手を抜いている箇所がない。「鳥獣戯画」「北斎漫画」から、ビゴー、「のらくろ」、手塚治虫、戦後の漫画雑誌、劇画に少女漫画、海外への進出、そして2000年以降の動向……と、省略することなく「全史」を記述します。まさに歴史教科書です。
戦後の漫画史は、雑誌に注目すれば頭に入りやすいことも分かりました。同時創刊の『少年サンデー』『少年マガジン』が牽引(けんいん)役。その後は5大誌時代になり、さらに『少年ジャンプ』が勢力を伸ばし……と、このあたり、戦国時代を学ぶ要領で読み進めました。
少女漫画はというと、少年漫画と同じ版元を中心に競争が続きます。今まで私の中で区別が曖昧だった『りぼん』『なかよし』『ちゃお』『花とゆめ』、そしてその執筆陣と代表作。自分で表を書いて整理しました。こうなると、本当に受験勉強という感じです。
21世紀には漫画雑誌の部数は減少し、電子版コミックが伸張していきます。こうした状況下で生まれた現代の作品群には特に筆を費やし、ほとんど毎年の動向を記します。作品の洪水の中で、今何を読めばいいか迷う読者にとっては、格好のブックガイドにもなります。
日本漫画の全体像が頭に入ると、自分がこれから読むべき作品が見えてきます。古典的名作なのに未読だった作品。先入観だけで避けていた作品。「漫画の受験勉強」だけで終わっちゃつまらない。本書で得た知識を携えて、書店の漫画コーナーに立ち寄ってみます。
◇さわむら・しゅうじ=1960年生まれ。元編集者。淑徳大教授。著書に『ベストセラー全史』など。