歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか 大治朋子著

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歪んだ正義

『歪んだ正義』

著者
大治朋子 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784620326382
発売日
2020/08/03
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか 大治朋子著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 「絶対的な正義がこの世にあるなんて思ってる?」

 テレビドラマ「相棒」劇場版2のセリフが本書の読後に思い浮かぶ。重たい問いへの答えはあるのか。

 米国や中東での豊富な取材歴を持つ新聞記者が休職し、イスラエルの大学院での2年にわたる研究を経て本書をまとめた。テロリズムや無差別殺人事件の犯人をめぐり、副題の問いを、「なぜ、過激化プロセスに入る人と入らない人がいるのか」と言いかえる。思索が読者を誘う。

 行動の過激化は極端な意見と直結するとは限らない。そこで著者は、「普通の人」の頭の中で何が起きているのかを心理学をもとに解こうとする。実に野心的で刺激的だ。

 「ローンウルフ」(一匹狼(おおかみ))と呼ばれる過激派組織への所属歴を持たない犯人が9・11事件以降増える。

 彼ら彼女たちは作戦の遂行よりもバーチャルコミュニティー、つまり、ネットの社会からの承認を求める。12年前、東京・秋葉原の歩行者天国で17人が死傷した無差別殺傷事件。その犯人・加藤智大(ともひろ)死刑囚もインターネットの掲示板を居場所にした。

 いじめなどの個人的な悩みや社会への怒りに基づく思い込みを、さらに強くする作用がそこにある。

 この過激化メカニズムを著者は、わかりやすく説得的な図式に描く。被害者意識を抱き、外の集団すべてを人間だと見なさなくなる。不正義を正すヒーローとしての自己形成によって自尊心を取り戻した果てに、「聖戦」という「歪(ゆが)んだ正義」へと打って出る。誰にでもありうる。

 背後にある心身の「バランスシート」の崩壊、それを防ぐための対応法については本書を開いて頂こう。ジャーナリストとしての取材経験、研究者としての知見、という二つの要素を組み合わせて現実を解明する本書の醍醐味(だいごみ)を堪能できるだろう。

 「自粛」の嵐が吹き荒れ、異なる見方への不寛容が広まるいまこそ、「正義」をめぐる著者の真摯(しんし)で柔軟な思考は、伴走者として不可欠だ。

 ◇おおじ・ともこ=毎日新聞編集委員。2002、03年度の新聞協会賞を受賞。著書に『勝てないアメリカ』など。

読売新聞
2020年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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