内なる町から来た話 ショーン・タン著

レビュー

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内なる町から来た話

『内なる町から来た話』

著者
ショーン・タン [著]/岸本佐知子 [訳]
出版社
河出書房新社
ISBN
9784309208039
発売日
2020/08/26
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

内なる町から来た話 ショーン・タン著

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 これはだれかに贈りたくなる本だ。実際私も、25ある話のうちまだ半分も読んでいないというのに、新たに本書を購入し、「とりあえず何も聞かずに開いてみて」と友人に渡した。読んでいる最中から、だれかに教えたいを越えて、だれかに贈りたくなる。

 ショーン・タンと言えば、いわゆる“大人向けの絵本”を多く発表している。2011年に日本で出版された『アライバル』は世界中で話題を呼んだ。文章が一切使われていない絵本でありながら、移民を描いたその内容で多くの大人が涙したのだ。そう、ショーン・タンの作品は、イマジネーションを刺激する。『内なる町から来た話』で描き出された25の動物をめぐる物語でも、さまざまなところへ思考が飛んでいく。

 今回は絵とともに文章も一緒に味わえるが、これがまた、独立して短編小説としても楽しめるくらいの濃厚さ。ビルの87階に住んでいるワニの話、高速道路に現れたサイの話、病院に白いフクロウがいる話、会議室で重役がカエルに変わってしまった話、クマが人間を訴えた話など、幻想的などこかの世界を日常の中に浮き上がらせる。人間にとっての良質な生活は、地球に暮らすすべての生命にとっても、良質と言えるのだろうか。おのずとさまざまな社会問題、たとえば生態系、環境、食、経済などに思いを巡らせることになる。

 絵と文章を見開きで同居させていないその構成により、文章でぐっと世界に潜ったところで、ページをめくり、想像もしなかった世界がまた目の前に広がる。繊細でありながらも多くを語らず、でも力強い。そして美しい。途中から画集を見るように、絵だけをまず先に見ていき物語を想像してみたりもした。きっと、またそれぞれの物語が生まれるはずだ。

 どうか、この美しい世界を見つけ出すことができますように。祈るような気持ちと共に、この本を多くの人に贈りたい。岸本佐知子訳。

 ◇Shaun Tan=1974年オーストラリア生まれ。著書に『ロスト・シング』『遠い町から来た話』など。

読売新聞
2020年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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