仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝 鵜飼秀徳著

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仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝

『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』

著者
鵜飼秀徳 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784022517142
発売日
2020/09/07
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝 鵜飼秀徳著

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 島津製作所といえば、最近は新型コロナウイルスのPCR検査事業で話題に上る。2002年当時、同社ライフサイエンス研究所主任だった田中耕一さんが43歳の若さでノーベル化学賞を受賞し「ドッキリかと思った」と作業着姿で記者会見場に登場した場面を思い浮かべる方も多いだろう。本書では、分析計測機器や医療用機器などを主軸事業とする、京都の老舗メーカーの設立から現在までを、京都生まれの著者が辿(たど)る。

 島津家は元来、西本願寺出入りの仏具商だった。しかし、明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で大きな打撃を受ける。初代島津源蔵は時代を読み、仏具に固執せず、新しい事業の展開を考え、1875年、島津製作所を創業した。

 拠点は、高瀬川の起点、木屋町二条。この辺りには、京都舎密(せいみ)局を始めとする府の様々な機関、山本覚馬(かくま)など府の要人邸が集まり、自然にそこに出入りする人物とのつながりができた。オランダ人薬学者やドイツ人技師らお雇い外国人からの学びは同社の礎となる。77年、日本初の内国勧業博覧会には鋳物仏具製造で培った技術を駆使した医療器具を出品し、大久保利通からの褒賞を受賞。その後、民間初、人間を乗せた軽気球の飛行の成功などで名を挙げた。

 2代源蔵は、生涯178の特許を取得する。特筆すべきは蓄電池製造の為(ため)の技術で、日露戦争でバルチック艦隊を撃破する端緒となった「敵艦見ゆ」の打電に繋(つな)がった。源蔵は、<科学は実学である。人の役に立たなければ理論だけを知っていても意味がない>と語った。1930年には、「十大発明家」に選出され宮中に招かれ顕彰されている。

 古くからの京都の人に「島津のマネキン」は知られるところ。本書で人体解剖標本が出発だったと知った。自由闊達(かったつ)な発想の物作りが今日の京都のベンチャー興隆を呼び込んだのだと納得させられる。創業の地は資料館として、武田五一設計の旧本社は商業施設として今も残る。当時の息吹を感じられるのが嬉(うれ)しい。

 ◇うかい・ひでのり=1974年、京都市生まれ。ジャーナリスト。著書に『無葬社会』『仏教抹殺』など。

読売新聞
2020年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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