読み応え十分な元自衛官のインサイドリポート

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統合幕僚長 我がリーダーの心得

『統合幕僚長 我がリーダーの心得』

著者
河野克俊 [著]
出版社
ワック
ISBN
9784898314944
発売日
2020/09/08
価格
1,650円(税込)

読み応え十分な元自衛官のインサイドリポート

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

〈幸か不幸か自衛隊にとって大きな節目となる出来事のほとんどすべてに立ち会うという数奇な自衛官人生を歩んだ〉

 自叙伝は波瀾万丈に限る。第5代統合幕僚長が自衛隊生活の46年を振り返る本書。1977年に入隊、自衛艦隊司令官、海上幕僚長などを経て2014年に自衛官最高位に登り詰めたキャリアについては(危機はあるものの)ほぼ順風満帆。読んでいて退屈しないのは、自衛隊を取り巻く環境が激変するからだ。〈節目〉が怒涛のように押し寄せる。

 1990~91年の湾岸危機・戦争。自衛隊派遣反対派は「いつか来た道」「蟻の一穴」「軍靴の足音が聞こえる」と連呼していた。36歳の三佐だった著者は〈絶望感を抱いた〉という。

 だが、ペルシア湾への掃海部隊派遣を経て、国際平和協力法が成立すると、自衛隊は〈オペレーションの時代〉に入る。米国同時多発テロに際しては〈ショウ・ザ・フラッグ〉が実現。戦後初めて、旗幟を鮮明にして作戦に参加した。〈日本にとっても自衛隊の歴史にとっても画期的な一歩〉を踏み出したあとは……。

 いま、内閣府の世論調査で自衛隊に「良い印象を持っている」と答える人の割合は約9割。安全保障への寄与だけでなく、災害現場などでの貢献も知らない人はいない。自衛隊が「目の敵」にされ、隊員だというだけで住民登録を拒否される事件があったことなど、もはや誰も信じないだろう。「顔の見える活動」を地道に続けることで、人々が自衛隊を見る目は変わった。その変化を現場で体感してきた元自衛官のインサイドリポートとして読み応え抜群。

 イージス艦「あたご」と漁船の衝突事故で海幕防衛部長を更迭された著者が、6年後に起きた輸送艦「おおすみ」と民間船の衝突事故に海上幕僚長として臨み、事態にどう対処したかは本書の白眉。危機管理の手本ともなるはずだ。

新潮社 週刊新潮
2020年10月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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