いとこのスックと大統領のためにケーキを作る

レビュー

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ティファニーで朝食を

『ティファニーで朝食を』

著者
Capote, Truman [著]/村上 春樹 [訳]/竜口 直太郎 [訳]/カポーティ トルーマン [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784102095089

書籍情報:openBD

いとこのスックと大統領のためにケーキを作る

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

今回のテーマは「大統領」です

 ***

 トルーマン・カポーティは幼い頃、母親に捨てられたも同然で田舎町の親戚の家に預けられた。

 その孤児のようなカポーティを可愛がってくれたのはスックというはるかに年上のいとこだった。

 発達障害があったためか内気な女性で人付合いをほとんどしなかったが、幼いカポーティを可愛がった。それが親に見捨てられた子供にとって救いになった。

 カポーティの短篇「クリスマスの思い出」(『ティファニーで朝食を』所収)は、このスックとの幸せなクリスマスを描いている。

 七歳の少年と六十歳を越したスックはクリスマスの季節に、二人だけのささやかな楽しい時を持つ。

 二人で三十個ものフルーツケーキを作る。それを遠くに住む知人たちに送る。そのなかにはなんとF・ローズヴェルト大統領がいる。

 無論、大統領が二人のことなど知る筈もない。それでも二人は大統領のためにケーキを作る。

 時は一九三〇年代。アメリカは大恐慌下にある。苦難の時代を乗り切るために働いている大統領を思って二人はケーキを送る。

 市井の無名の人間の大統領への無償の愛情がこもっていて微笑ましい。

 カポーティは生涯、この童女のように無垢なスックを愛し、忘れなかった。

 秋に公開されるドキュメンタリー映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』によれば、カポーティはスックが使った、ケーキを入れる粗末な缶を大事にし続けたという。

新潮社 週刊新潮
2020年10月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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