『アンと愛情』
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秋の愛情――『アンと愛情』著者新刊エッセイ 坂木司
[レビュアー] 坂木司(作家)
久しぶりに、アンちゃんの新刊が出ます。それも、食欲の秋に!
和菓子のTPO的に、秋はベストシーズンと言っても過言ではありません。夏よりは湿気が少なく、冬よりは乾燥していない。それはつまり、カビたりひび割れたりする危険性が少ないということ。常温で食べることを前提に作られる和菓子が、底力を発揮する季節。それが、秋なのではないかと思います。
そして秋といえば栗(くり)、サツマイモ、カボチャ。ほくほくぽくぽくしたものが最高においしくなります。個人的には岐阜系の栗きんとんに、シナモンティーを合わせるのが好きです。ああ、秋はシナモン・ニッキの季節でもありますね。茶色くて落ち葉の風情があって、山の空気を感じます。
ちなみにスイートポテトやカボチャ餡(あん)のお饅頭(まんじゅう)なんかは、カフェラテやミルクティーを合わせると軽食感が出るところも好きです。そういえば長野のおやきって、お菓子と食事の絶妙なあわいにいる気がするんですけど、どう思われますか。ともあれ、気温の下がりつつある朝に、甘いお菓子とミルク系の飲み物が出てきたら、ちょっとにっこりしてしまいます。
お菓子と飲み物に色々な組み合わせがあるように、『アンと愛情』には、色々な組み合わせの愛情を盛り込んでみました。男女間の恋愛のみならず、親の愛、友への親愛、働く相手への敬愛など、形や相手は様々です。愛は双方向でなくても成立するし、叶(かな)わない想いもまた愛です。
甘かったりしょっぱかったり、苦かったり酸っぱかったり。はたまた味が感じられないほど、衝撃を受ける瞬間があったり。そんなお話を、小箱に詰められた和菓子を一つずつ味わうように、ゆっくり楽しんでいただけたら嬉(うれ)しいです。
秋なので、そこそこ日持ちもしますからね。