<東北の本棚>苦難の福島希望の兆し

レビュー

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玄牝―歌集

『玄牝―歌集』

著者
高木佳子 [著]
出版社
砂子屋書房
ISBN
9784790417620
発売日
2020/08/01
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>苦難の福島希望の兆し

[レビュアー] 河北新報

 著者はいわき市在住で、短歌結社「潮音」の同人。第3歌集となる本書に、2012年以降の作品300首余りを収めた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の体験を詠んだ前作に続き、災後の福島で過ごす日々を中心に描く。
 原発事故後、除染された大地は荒れ、外来種のセイタカアワダチソウ(代萩)に覆われた。<充(み)ちみてる代萩の黄に近づきてわが鎌をいま振るはむとす>。この地に住み続ける決意が伝わってくる。
 <牛乳はないのかと子が問うてくるむらさきに降る雨の朝を>。日常は静かに流れるが、時に<あなたのいふ「人の住めない処」に住みをれば何やらわれは物の怪のやう>と心ない声への怒りもにじむ。
 「雨脚」と題した章は臨終の床にある母を見つめた。<母を恋ふる心は言はず時長く子らは万年青(おもと)を眺めてゐたり>。部屋に漂う寄る辺なさ。植物の生がいっそう際立つ。
 歌集名は中国の思想家老子の言葉。後書きによると「原初の世界であり、万物を生む母」を指す。
 著者は「震災以降、混迷する世の中」を思い、<生れしめむと身をよぢるとき重たかる胞衣も生みゆく玄牝(げんぴん)この地>と詠む。後産になぞらえた1首から福島の苦難とともに希望の兆しを感じた。(和)

 砂子屋書房03(3256)4708=3300円。

河北新報
2020年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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