【聞きたい。】益田ミリさん 『今日の人生2 世界がどんなに変わっても』
[文] 油原聡子
■日々のカケラが伝える「私」
若い女性の会話に心の中で同意し、落ち着いた雰囲気の野良猫を「猫神さま」と呼ぶ-。日々の何げない出来事をつづったエッセー漫画だ。ミシマ社のウェブマガジンで連載された作品。第2弾となる本書は平成29年からの4年間が描かれた。
あたり前の日常も、捉え方次第で宝物になる。「この瞬間に生きてここにいる記録みたいな感じです。小さなことで友達にしゃべっても伝わらないことも、絵にすることで伝わると思う」
細やかな心情描写に定評があり、言葉にしづらい思いを拾い、ささいなことに潜む切実さをすくいあげる。ハンバーグが食べたい気分だったのに本日のランチを選んだとき。《こんな小さなことからでも なおざりにしていくと ここぞという時に 大事なことが選べなくなる》とつづる。
コロナ後の世界も描かれた。子供たちの姿がない公園は寂しげだ。ただ、人と会わなくなったことで、ちょっとした気づきもあった。「今までは会話の場つなぎ的に、自分の中で答えの出ていないことも言葉にしていました。これから大切に育てていくものが、作品に昇華される前に薄れてしまうことがあった。今は自分の中にため込む時期なのかもしれません」
暮らしが変わるなかで変わらないものも見つけた。散歩中に夕焼けを見たときのエピソードが印象的だ。「夕焼けをきれいで美しいと思う気持ちは一生変わらないと確信しました。世界がどんなに変わっても、思い出は失われない」
描きおろしの「ポーランドごはん」では、異国情緒たっぷりのメニューを前に幸せ気分に。「旅行になかなか行けない時期なので、楽しんでもらえたら。早く旅行記が描けるような状況になったらいいですね」
うれしい気持ちも悲しい時も、ちょっとした発見も。日々のカケラを積み上げると自分の輪郭が見えてくる。いつだって人生の大切な瞬間なのだ。(ミシマ社・1500円+税)
油原聡子
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【プロフィル】益田ミリ
ますだ・みり 昭和44年、大阪府生まれ。主な著書に『すーちゃん』シリーズ(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文芸春秋)など。