70年代発表のSF トランプの登場を予言したような作品

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アメリカの壁

『アメリカの壁』

著者
小松 左京 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784167909819
発売日
2017/12/05
価格
814円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

70年代発表のSF トランプの登場を予言したような作品

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

今回のテーマは「大統領」です

 ***

 北米大陸が上空百キロ以上に達する正体不明の「白い霧の壁」に取り巻かれ、外部との交通も通信も一切不可能になる。壁に突入した飛行機や艦艇は、二度と帰らず、入国も出国も不可能。アメリカは世界から孤立する。

 これは自然現象なのか。それとも……。アメリカに滞在していた日本人の豊田は、自国第一主義を掲げて当選した大統領の存在が気になりはじめる。

「アメリカの壁」は1977年発表の小松左京のSF。「壁」、「大統領」とくればトランプだ。彼の当選後、その登場を予言したかのような小説があると話題になり、この作品を表題作とする文庫が復刊された。

「今の大統領が当選する前後から、アメリカはいやに小さくなりはじめた。内向的になり、外の世界に冷淡になり……センチメンタルなまでに自愛的になり……」と豊田が言うと、アメリカ人のハリーは、それもやむをえないと答える。

「“外の世界”はあまりに長い間、アメリカにぶらさがりすぎた。アメリカに言わせれば、あまりに長い間、むしられすぎた」

 そしてこう続けるのだ。

「むこうには、自由世界と全く体制のちがう、まわりに対してきわめて非情な行動のとれる、巨大な相手がいて、どんどん強大になっている……」

 トランプが初当選した時は、アメリカの壁といえばメキシコ国境を連想した。だがいま改めて読むと、さらに高く不穏になりつつある中国との壁を思わせる。

新潮社 週刊新潮
2020年11月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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