『アメリカの壁』
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70年代発表のSF トランプの登場を予言したような作品
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「大統領」です
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北米大陸が上空百キロ以上に達する正体不明の「白い霧の壁」に取り巻かれ、外部との交通も通信も一切不可能になる。壁に突入した飛行機や艦艇は、二度と帰らず、入国も出国も不可能。アメリカは世界から孤立する。
これは自然現象なのか。それとも……。アメリカに滞在していた日本人の豊田は、自国第一主義を掲げて当選した大統領の存在が気になりはじめる。
「アメリカの壁」は1977年発表の小松左京のSF。「壁」、「大統領」とくればトランプだ。彼の当選後、その登場を予言したかのような小説があると話題になり、この作品を表題作とする文庫が復刊された。
「今の大統領が当選する前後から、アメリカはいやに小さくなりはじめた。内向的になり、外の世界に冷淡になり……センチメンタルなまでに自愛的になり……」と豊田が言うと、アメリカ人のハリーは、それもやむをえないと答える。
「“外の世界”はあまりに長い間、アメリカにぶらさがりすぎた。アメリカに言わせれば、あまりに長い間、むしられすぎた」
そしてこう続けるのだ。
「むこうには、自由世界と全く体制のちがう、まわりに対してきわめて非情な行動のとれる、巨大な相手がいて、どんどん強大になっている……」
トランプが初当選した時は、アメリカの壁といえばメキシコ国境を連想した。だがいま改めて読むと、さらに高く不穏になりつつある中国との壁を思わせる。