言語の起源 ダニエル・L・エヴェレット著 白揚社

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言語の起源

『言語の起源』

著者
Daniel L. Everett [著]/松浦俊輔 [訳]
出版社
白揚社
ジャンル
語学/語学総記
ISBN
9784826902205
発売日
2020/07/20
価格
3,850円(税込)

書籍情報:openBD

言語の起源 ダニエル・L・エヴェレット著 白揚社

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 人類はどのようにしてことばを獲得したのか。その研究は近年盛んになっています。キーワードのひとつは「言語遺伝子」です。

 言語学者のチョムスキーによれば、人は大昔に脳の遺伝子に突然変異が起こったことで、ことばを持つようになったといいます。この学説を支持する立場からは、人が持つ遺伝子には、特有の言語構造が何らかの形で刻まれている、という説明がなされています(池内正幸著『ひとのことばの起源と進化』)。

 一方、チョムスキーの学説に疑問を呈する立場もあります。単一の遺伝子が言語を可能にしているということは考えにくい、というのです(正高信男・辻幸夫著『ヒトはいかにしてことばを獲得したか』)。

 さて、本書の著者で言語学者のエヴェレットは、チョムスキーの言語遺伝子説を真っ向から否定します。失語症になった人を見ても、言語障害だけが単独で起きているわけではない、人の体には、ことばだけをつかさどる特別の部分はないのだ、と指摘します。

 では、ことばはどのように生まれたか。著者は記号の解釈が発達する様子を振り返ります。動物の足跡を見て「獲物がいる」と判断する段階から、やがて貝殻にジグザグ模様を彫り込むまでになる。これがホモ・エレクトゥスの時代。抽象的なシンボルを操る彼らは、すでにことばを持っていたと著者は考えます。

 彼らのことばは、最初は「俺、行く」のような単純な形だったろう。後に、文と文が入れ子になった複文が生まれ、ついには入れ子がいくつも重なった「再帰的」な文へと発展した。私のことばでまとめるとこうなります。

 言語遺伝子説では、人は言わば偶然に、高度なことばを授かったことになる。一方、著者の説では、人は何百万年も工夫と改良を続け、ことばを磨いてきたことになる。はたして、どちらが真実に近いのでしょうか。松浦俊輔訳。

読売新聞
2020年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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