歩く大阪・読む大阪 平田達治著 鳥影社

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歩く大阪・読む大阪 大阪の文化と歴史

『歩く大阪・読む大阪 大阪の文化と歴史』

著者
平田達治 [著]
出版社
鳥影社
ISBN
9784862658289
発売日
2020/09/04
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

歩く大阪・読む大阪 平田達治著 鳥影社

[レビュアー] 木内昇(作家)

 「御堂筋をガーッと行って本町通をシュッと曲がってすぐのとこにあります」と道案内を請うた相手に早口で説かれたその昔、余所(よそ)者の評者は、はて「通」と「筋」はどう違うのかと首をひねった。そんな謎も含め、大阪を舞台にした古今の小説を詳細にひもときつつ、個性的なこの都市の成り立ちを追ったのが本書である。

 現在の上町台地に難波宮が置かれた古代にはじまり、天下人となった豊臣秀吉の大坂城築城。これにともなう、東横堀川、西横堀川の開削や船場など市街地の造成と街は移ろってきた。が、御上におもねるばかりでないのが大坂のたくましさ。徳川の世には政商・河村瑞賢が音頭を取って運河を増やし、交易の荷を運搬しやすくしたことで、天下の台所と言われる一大商都へ発展を遂げる。この自主性に富んだ町人たちの活気が、魅力的な文学を引き出した。

 十返舎一九『東海道中膝栗毛』で弥次さん喜多さんは八軒家の渡しで船を降りて道頓堀の賑(にぎ)わいを散策、井原西鶴は『日本永代蔵』で北浜の米市での大商いの取引を描いた。その西鶴の後裔(こうえい)だと自称する織田作之助は、生玉前町に生まれ、幼い頃の遊び場は古代難波の昔からある生国魂神社。大阪に生まれ育ち、大阪で書き、大阪で死んだ西鶴に倣わんと、故郷を舞台にした小説を次々発表する。中でもご存じ『夫婦(めおと)善哉(ぜんざい)』で、ろくに働かずヒモ同然に暮らす柳吉が、いい仲になった蝶子を伴って食べ歩く、ドテ焼き、粕饅頭(かすまんじゅう)、どじょう汁といったB級グルメのおいしそうなことといったら。大坂町奉行所の元与力が起こした内乱に材を取った森鴎外『大塩平八郎』、三田文学で活躍した水上瀧太郎の『大阪の宿』では、工場が乱立した明治中期以降の煤煙(ばいえん)で覆われた光景も描かれる。

 写真や古地図も収録され、街の変遷を辿(たど)るのも楽しい。大阪愛と深い造詣にあふれた筆致に接するうち、東人(あずまびと)たる我が胸裡(きょうり)に羨望と嫉妬の嵐が吹き荒れたのは語るまでもない。

読売新聞
2020年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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