闘う村落 近代中国華南の民衆と国家 蒲豊彦著 名古屋大学出版会

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闘う村落

『闘う村落』

著者
蒲 豊彦 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784815809980
発売日
2020/09/04
価格
7,920円(税込)

書籍情報:openBD

闘う村落 近代中国華南の民衆と国家 蒲豊彦著 名古屋大学出版会

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 なんて刺激的なタイトルだろう。本書は、何百年にもわたって闘いに明け暮れた中国広東省東部の農民世界に迫った意欲的な研究だ。

 倭寇(わこう)が跳梁(ちょうりょう)した明代、福建省から広東省にかけて宗族中心の村落が城塞(じょうさい)化し、軍事力を持つまでに成長する。そして、村落間のもめごと――子供の喧嘩(けんか)から水争いまで――を集団的暴力で解決する「械闘(かいとう)」がはじまった。清代になると、村落は自立性を強め、械闘がむしろ慣習化した。しかも、械闘は残虐の一言では言い表せないほど凄惨(せいさん)な「暴力」だった。絶え間なく続く暴力が、強い村落と弱い村落をはっきりさせ、弱い村落同士は連合、村落を超えた横の繋(つな)がりが形成される。

 華南地方は日本の戦国時代さながらのなかで激動の近代を迎える。しかし、彼らはどこまでもしたたかだ。欧米の進出に合わせて、村落はキリスト教会を取り込み、北京の中央集権化に対抗する。植民地化など表面的なものに過ぎない。そして、清末に社会が不安定になると、新しい時代の思潮に触れた青年層の村落を超えた連帯が生まれる。

 しかし、歴史は一直線には進まない。封印されたかに見えた械闘は、1920年代の国民党と共産党の対立激化を機に一気に噴き出る。本書の圧巻はここだ。1927年、中国史上初の共産党による地方革命政府「海陸豊ソヴィエト」は、まさに械闘の本場で誕生したが、覆い隠されていた械闘を革命の名の下によみがえらせ、大殺戮(さつりく)をもたらした。その対象は、地主や資産家だけではなく、身体障害者やハンセン病患者にも向けられた。万国旗のようにつるした生首の下で開かれた「人頭会議」は、青年たちの理想からあまりにもかけ離れている。

 ところが、革命政府の崩壊後、械闘は急速に消滅する。本書はここで終わるが、「すべてを出し尽くして戦った」農民たちが、日中戦争や国共内戦にどう向き合ったのか。評者は続きをどうしても知りたい。

読売新聞
2020年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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