唯一の著書から読み解く菅総理大臣の“実像”とは

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政治家の覚悟

『政治家の覚悟』

著者
菅 義偉 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784166612871
発売日
2020/10/20
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

唯一の著書から読み解く菅総理大臣の“実像”とは

[レビュアー] 鈴木哲夫(政治ジャーナリスト)

 菅義偉という政治家を初めて一対一で取材したのは15年前。総務副大臣の時だ。以後官房長官時代まで、私のようなフリーの立場でも必ずサシ取材の時間を作ってくれた。

 官房長官時代、官邸では危機管理をめぐって当時の安倍首相周辺との確執があった。私は菅氏に「政権を守っているのにあれこれ言われ、嫌になるでしょう?」と訊ねると、苦笑しながらもこんな返事が返ってきた。

「でも面白い。官房長官だからこそいろんな政策がやれる」

 そう言ってやり遂げた仕事をあれこれ語った。

「(アルジェリアでのテロ事件で)日揮社員の家族のために現地に政府専用機を飛ばそうとしたら、担当の自衛隊が、規定があって飛ばせないと。おかしいでしょ。機体は政府のものだから。ならば民間で飛ばすと動いたらやりますと。硬直してる」(2013年12月)

「迎賓館の開放。ようやくやれた。インバウンドにもプラスなのに見物できない。担当の役人に聞いたら、要人を迎えるのに準備や後片付けで年間200日以上はダメだと。そんなバカなことある? 見直して250日間一般に開放するようにした。みなさん喜んでる。役所ってほんとにねえ」(2018年1月)

「インバウンドは地方経済に重要。インバウンドを増やすためのポイントはビザ。ここは法務省や警察を押さえなければ進まない。人事などを使ってこの二つを押さえる」(2018年1月)

「国内に水力発電とか農業用のダムが1000以上あるのに、それぞれ管轄が電力会社や農水省。うまく組み合わせれば水量がコントロールできる。国交省に開閉する権限を持たせる。法改正は必要ない。縦割りを崩す」(2019年12月)

 共通するのは縦割りや前例主義の打破だ。政治が趣味、仕事師、縦割りを崩す……。それを「面白い」と言う。また、官房長官として政権を安定させるために人事局を作り官僚をコントロール。強権剛腕ぶりも見せてきた。私の長い取材も本書もそうした政治家・菅義偉の実像だ。

 しかしあえて言うなら、それらは官房長官としての才覚であり評価だろう。首相はナンバー2ではない。次元が違う。各論政策ではなく、その先にどんな国にするのかという国家ビジョンを国民も私ももっと聞きたい。

 カットされた公文書管理のくだりも堂々と入れるべきだったと思う。そして前政権が逃げた公文書問題にもう一度取り組むと宣言すればいい。この問題もまた行政改革ではないか。

新潮社 週刊新潮
2020年11月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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