許せないのはなぜ? 「感情」の仕組みから人間関係を改善させるヒント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
モヤモヤしたりイライラしたりするとき、意識のどこかに相手への「許せない」という思いがわだかまっていることがあります。
しかし、そんな状態ではなんの解決にもならないばかりか、場合によっては人間関係を悪化させてしまうことになってしまうかもしれません。
でも当然ながら、それは避けたいところ。
そこで参考にしたいのが、『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(杉山 崇 著、あさ出版)。心理学者、臨床心理士である著者は、「許し」は自分自身にとって「本当に大切ななにか」を見つけるためのヒントのひとつだと主張しているのです。
著者のカウンセリングを受ける人の多くも、「なぜ私はあの人を許せないのだろう?」「なぜ、私はあの人から許されないのだろう」、そして、「そもそも“許す”ってなに?」という疑問について考えているのだとか。
そして、結果的にはそれこそがカウンセリングにおけるターニングポイントのひとつになるというのです。
「許す、許される」を考え、理解することで、身近な人間関係もとても良くなります。
私たち人間は、「人」と「人」の「間」を生きています。だから、「人間」と呼ばれるのです。そして、人はそれぞれに「大切な、何か」があります。
自分が大切にしていることは、他の人にも大切にしてほしいものですよね。
だから、お互いに何を大切にしているのか、わかり合うことが重要です。(「はじめに 許す練習を始めましょう」より)
とはいえお互いに、相手が大切にしていることがわからないというケースも少なくないはず。
それどころか私たちはしばしば、誰かに対して「許せない」という感情を持ってしまいがちでもあります。「『許せない』に囚われてはいけない」とわかってはいても…。
では、どうしたらいいのでしょうか?
大切なポイントのひとつは、「感情」の仕組みを知ることのようです。そこで第1章「許せないにはワケがある」に目を向け、感情についての考え方を確認してみたいと思います。
感情とは、シグナル+エネルギー
「許せない」は、心が何者にも支配されていないことを示す価値ある心理。
とはいえ、決してその心理に囚われてはいけないと著者は主張しています。そして、それを避けるための重要なポイントがあるといいます。
それは、「許せない」の意味を知り、「許せない」想いがあなたに訴える何かを理解することです。
実は、あらゆる「感情」は「シグナル(信号)」+「エネルギー」でできているのです。
(中略)ここではS.Freud(フロイト)の説だと覚えておいてください。 S.Freudは、心の仕組みと働きについて、初めて科学的な考察を行った神経学者です。(55〜56ページより)
彼の考察(精神分析)は、現代の脳科学で実証が進められているのだそうです。(55ページより)
持て余したエネルギーが相手と自分を傷つける
著者によれば、「許せない」は「思い」ではなく「想い」。
感情が私たちに訴える「シグナル」、すなわち意味を理解できれば、感情が持っている「エネルギー」をどこに向けるべきかを見失うことはありません。
このエネルギーはあなたをいい方向に動かす原動力となって、あなたを幸せに導くでしょう。(56ページより)
ところが感情の意味が理解できないと、エネルギーを正しい方向に向けられなくなってしまうわけです。
するとエネルギーを持て余すことになるため、抑えきれないときには誰かを傷つけるか、あるいは自分自身を傷つけるか、いずれにしても誰も幸せになれません。
たとえば、感情の意味を見失ってエネルギーが持て余されるいい例が、日本に昔からある「売りことばに買いことば」な状況。
お互いに感情をぶつけあってしまうわけですが、それでは感情の本来あるべき意味を見失っているにすぎないわけです。
いいかえれば、持て余したエネルギーで傷つけ合っているだけのこと。それでは、お互いの傷がさらに深まっていくばかりです。(56ページより)
相手の「想定外」を増やさない対応をする
人は「想定外」に弱い生き物。私たちの心は、まわりが「想定どおり」かどうかをモニタリングするために進化したと考えられているそうです。
そのため想定外に対して、まずは拒否反応を起こすのです。そして、そんな拒絶反応をストレートに表現するのが、「雑な対応」。
それは相手の「想定外」を拡大させ、結果的に自分の「想定外」をさらに拡大することになります。そのため、お互いにストレスフルな状態をつくり出すことになってしまうということ。
逆にいえば、「イラッ」としたときこそ、「イラッ」とした意味を考えてていねいな対応をすることが大切。そうすれば、自分の心の状態と人間関係は大きく改善するのでしょう。(66ページより)
感情の意味を理解する
たとえば会話をしているときに、相手が感情的になったとします。その際、相手の感情の意味がわからないと、持て余されたエネルギーは「攻撃のエネルギー」に変わってしまうもの。
したがって、まず、「感情はその意味がわからないままだと、誰かを傷つけるエネルギーになる」ということを覚えておくべきだと著者は記しています。
ということはつまり、相手の感情が訴えるシグナルをキャッチしてその意味を捉えることができれば、「誰かを傷つけるエネルギー」は「誰かを幸せにするエネルギー」へと変わるわけです。
「許す、許される」において、感情の意味を理解することは重要です。(71ページより)
これは、なにかとすれ違いが生じやすい人間関係において、重要なポイントかもしれません。(66ページより)
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「許す、許される」について理解することは、“自分が本当に求めているなにか”に繋がる原動力であり、身のまわりの人間関係をよりよくするものでもあるそう。
人間関係をよりよいものにするために、手にとってみてはいかがでしょうか?
Source: あさ出版
Photo: 印南敦史