つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等 エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマン著

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つくられた格差

『つくられた格差』

著者
エマニュエル・サエズ [著]/ガブリエル・ズックマン [著]/山田美明 [訳]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784334962432
発売日
2020/09/17
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等 エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマン著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 著者の2人はフランス人で、『21世紀の資本』の著者ピケティの共同研究者である。この2人が税制の観点から格差の問題に切り込む。現代アメリカの税制が抱える問題点をその歴史的変化から分析し、さらに解決策を提示するのだ。分析は明快で、解決策は説得的だ。

 皮肉なことに、トランプ大統領が「偉大なアメリカ」と称(たた)える1950年代、アメリカの税制は極めて累進的だった。変化が生じたのはレーガン政権以降である。「課税は窃盗」という自由至上主義的な風潮の中で、内国歳入庁の活動力は落ち、租税回避産業が隆盛する。これにグローバル化を背景にしたタックス・ヘイブンの活用が拍車をかけ、「租税競争」が激化する。大企業の課税回避がますます盛んになる。

 資産の多くを企業の株式という形で保有しているのが富裕層たちだ。昨今トランプ大統領の納税額が少ないことが話題になったが、これは彼個人の問題ではない。一言で言うと、資産所得は課税が困難なうえ、税率が労働所得に対する税率を下回っている。こうして富裕層の平均税率が労働者のそれを下回る事態が生じている。

 多くの論者はこの事態を租税競争の必然的結果と見なしがちだが、本書の考えは正反対だ。これらの問題の解決は、政府に強い意志さえあれば難しくないとして、様々な具体策が提案される。

 かつてのアメリカの税思想は、税収の減少を招いたとしても高額所得に高い税を課すべきというもので、極めて高い限界税率が課されていた。それは再分配後の所得の公平性を目指すというより、税引き前所得に影響を与え、その集中を防ぐことで、民主主義の保護と自由競争の促進を目指すものだった。この仕組みは、高い納税規範で守られていたという。

 著者たちは、社会が税制を自由に選べることを再三強調する。つまるところ、思想や規範が大きな役割を果たすのだ。山田美明訳。

 ◇Emmanuel Saez=1972年生まれ◇Gabriel Zucman=86年生まれ。共に米カリフォルニア州立大教授。

読売新聞
2020年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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