網内人 陳浩基著 文芸春秋

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網内人

『網内人』

著者
陳 浩基 [著]/玉田 誠 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163912615
発売日
2020/09/28
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

網内人 陳浩基著 文芸春秋

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 著者は、二〇一三年から一九六七年まで遡る香港の現代史を連作短編形式で描いた『13・67』で、アジアミステリー界の中心に躍り出た新進気鋭のスター作家だ。本書もまた二〇一五年の香港を舞台にしており、著者の描写力のおかげで「生活する香港」をたっぷりと紙上体験することができるが、お話そのものは重層的なサスペンスミステリーで、事件の経緯も、加害者の動機も被害者の苦悩も、遺族の深い絶望と真実を希求する心情も、現代の香港だけではなく、どの国のどんな社会でもあり得る普遍性を帯びている。本書の物語が成立するために必要な条件と言えば、その社会でインターネットが普及していることだけだ。

 タイトルは著者の造語で、文字通り「網」=ネットのなかの人という意味である。ストーリーに照らし合わせれば、高度情報化社会の網の目にからめとられて身動きできなくなってゆく人をさす言葉だと考えることもできるだろう。

 痴漢冤罪(えんざい)騒動をめぐって発生したネット内での誹謗(ひぼう)中傷を苦にして、女子中学生シウマンが自殺してしまう。一人残された姉のアイは、シウマンが非難されるきっかけをつくったある書き込みの投稿者が素性を偽っていたことを知り、妹を死に追いやった一連の出来事には何者かの邪(よこしま)な意思が働いていたのではないかと疑いを抱く。ネット世界に精通する探偵アニエを雇い、その言動に振り回されながらも一歩ずつ進んでゆくアイが、ついにたどりつく真相とは。

 香港移民二世の両親を亡くしたあと、苦労を分かち合いながら暮らしてきた姉妹の姿。妹を救えなかったアイの慟哭(どうこく)。アニエの凄腕(すごうで)ぶりと、合間に挿入される意味深なメール。事前情報はできるだけ少ない方が、本書が与えてくれる様々なエモーションを堪能できるので、読みどころの多くをご紹介できない。ただ読後の感動のなかで、むしょうにワンタン麺を食べたくなりますよ! と書いておきます。玉田誠訳。

読売新聞
2020年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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