ストーンサークルの殺人 M・W・クレイヴン著 ハヤカワ・ミステリ文庫

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ストーンサークルの殺人

『ストーンサークルの殺人』

著者
M・W・クレイヴン [著]/東野 さやか [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151842511
発売日
2020/09/03
価格
1,298円(税込)

書籍情報:openBD

ストーンサークルの殺人 M・W・クレイヴン著 ハヤカワ・ミステリ文庫

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 イングランド北西端に位置するカンブリア州は湖水など豊かな自然に恵まれ、ストーンサークル(環状列石)が多く点在する。そのストーンサークルを舞台に同年齢層の男性を標的とした残虐な焼殺事件が次々に発生し、犯人は「イモレーション・マン(イモレーション=焼き殺すこと)」と呼ばれる。3番目の被害者の損壊した遺体に、不祥事で停職中の国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思(おぼ)しき字が刻まれていることが判明した結果、ポーは処分を解かれ捜査に加わることになる。ポーとコンビを組むのはティリー・ブラッドショー。彼女は若く、社会的適応性が十分とはいえないが、理論数理学に長(た)けた天才的素養の持主であり、データ分析に非凡な才能を発揮する。

 被害者の共通項は一体何か、犯人の動機は何か、謎は簡単には解明されない。が、事件の背後に潜む果てしない闇は、地道な捜査により徐々に明らかになっていく。「世間一般の常識を超えて、正義を求める欲求」が強いポーは、一直線に捜査に邁進(まいしん)するタイプの警官であり、政治的発想は皆無で忖度(そんたく)という言葉とも無縁である。常に合目的的に行動する結果、上層部との摩擦が絶えない。そのため、時として窮地に陥るが、機転を利かせて状況を打開する。警察内部では敬遠される存在だが、物語の主人公としては魅力的だ。

 物語はほぼ一貫してポーの三人称現在進行形で書かれていることから、視点が固定し捜査の進行も頭に入りやすく、行きつ戻りつすることもなく、570頁(ページ)が全く苦にならない。捜査手法は理に適(かな)っており、推論の過程にも無理がない。事件は解明されるが苦い余韻と疑問が残り、そして最後に忖度無縁のポーの行動が……。

 今年の翻訳ミステリーにおける収穫の一つであることは間違いない。英国推理作家協会賞最優秀長篇(ちょうへん)賞ゴールド・ダガー受賞作。東野さやか訳。

読売新聞
2020年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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