『苦しい時は電話して』
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苦しい時は電話して 坂口恭平著
[レビュアー] 荻原魚雷(エッセイスト)
◆日々を生き抜く知恵と技術
帯に携帯電話の番号が載っている。生きているのがつらくなったら電話してというメッセージだ。
坂口さんは路上生活者の住居「0円ハウス」の研究をしたり、東日本大震災後、熊本に移住し独立国家を作ったりしてきた。そんな彼が自殺者をゼロにしたいと考え、二〇一二年からはじめた活動が「いのっちの電話」である。一日五件から十件くらい電話がかかってくるという。
「死にたい時は、毎回、全く同じ状態なのです」
希死念慮を抱いている状態には共通点、もしくは何かしら傾向がある。
他人と自分を比べ、見劣りしていると感じ、落ち込む。あらゆることが恥ずかしくなる。人とうまく話せなくなる。いずれもよくあることだ。坂口さんは死にたくなるのは脳の誤作動と分析する。だから対処可能だし、必ずその状態から抜け出せる。
生きることがつらくなるのは、からだの発する危険信号であり、休みたがっている証拠でもある。それは「熱が出ている時と同じ」。にもかかわらず、生真面目な人ほど、今のしんどさは自分のせいだと思い込み、終わりなき反省に身をやつしてしまう。もちろん反省自体はわるいことではない。ただしその前に「ひとまず休息」したほうがいい。本書は休むことの大切さをくりかえし説いている。疲れは怖い。
なお、電話をかけてきた相談者にたいし、坂口さんは散歩するとか食事を作るとか何かひとつだけミッションを提案するそうだ。
お風呂に入ってすっきりする。着替える。顔を洗う。歯を磨く。カーテンを開け、部屋を換気する。
苦しい時は「頭を使わないで、体を使う」こと。それから食事をとる。できれば外に出る。なるべく「気持ちいい」とおもえる感覚を優先させる。それがむずかしいことはわかった上で自分の身を大切にし、なるべく人に頼りながら心地よく暮らす。著者自身の経験をもとに、日々を生き延びるための知恵と技術を教えてくれる。
(講談社現代新書・880円)
1978年生まれ。建築家、作家、絵描き、歌い手。著書『幻年時代』など。
◆もう1冊
渡辺京二著『気になる人』(晶文社)。評論家が坂口らにインタビュー。