『「グレート・ギャツビー」を追え』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
当代ベストセラー作家が共演 フィッツジェラルドをめぐる物語
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
書店の店頭で見かけて二度見した。グリシャムの新作ミステリーを、村上春樹が翻訳?
一冊におさめるには総カロリーが高すぎる気もする、一見、水と油のベストセラー作家二人の組み合わせだ。つなぐのは、邦題にある『グレート・ギャツビー』である。
『グレート・ギャツビー』などフィッツジェラルドの五作品の直筆原稿が、母校プリンストンの大学図書館から強奪される。完全犯罪は、だが、わずかな血痕からほころびを見せる。DNA検査で容疑者が特定され、五人の犯人のうちふたりは第一章であっけなく逮捕されるのだ。
ここまでは導入で、本題はここから。容疑者は脇に退き、原稿を持っているらしい魅力的な独立系書店主と、若く美しい女性作家が、追われる者と追う者として前景にせり出す。
書店のあるカミーノ・アイランドには、彼女の亡き祖母のコテージがあり、執筆のためしばらく滞在して、書店に出入りし書店主に近づいてもまったく不自然ではない。
そんな都合のいい設定があるかと一瞬思うが、それもそのはずで、彼女は、さまざまなデータを総合し、若さや美しさも含めて白羽の矢を立てられた探偵役なのだ。才能はあるものの二作目の長篇を書きあぐね、学資ローンの返済にも苦しんでおり、追う側のほうが精神的に追いつめられている、というのが現代的。
予測はことごとく覆され、要所での大胆な省略が、物語をスピーディーに展開させ飽きさせない。一九八〇年代に出た作品の初版本が高額で取引されるようすや、島のコミュニティでの作家どうしのやりとりなど、本の周辺の話の細部も興味深い。
訳者あとがきによれば、村上氏はポーランドの書店で本書を手に取ったそう。グリシャムが見ていないフィッツジェラルドの生原稿も見たことがあるらしく、訳しながら、「ああ! それは…!」などと思ったりしなかったかとつい想像してしまう。