鈴木清順論 上島春彦著

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鈴木清順論

『鈴木清順論』

著者
上島春彦 [著]
出版社
作品社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784861828249
発売日
2020/09/23
価格
11,000円(税込)

書籍情報:openBD

鈴木清順論 上島春彦著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 映画監督・鈴木清順を評伝ではなく、作品への斬新かつ歴史的な視野で論じ尽くす。中身も量も価格もケタ外れ。

 3年前、93歳で亡くなった清順は晩年、白いヒゲを目印にテレビ出演でも知られた。その独特の伝説に囚(とら)われず、副題「影なき声、声なき影」の視点から、映像と音の乖離(かいり)を核に作品を徹底的に解く。

 「威圧的存在感でなく唐突さがキーになる」と見れば、49作目の遺作「オペレッタ狸(たぬき)御殿」に漂う「失敗感覚」を読者は噛(か)み砕ける。作家特有の自意識より、会社に雇われた契約者の「てらいがない」点こそ清順的と著者は書く。彼の映画を「見る」体験は、別の物語をも「読む」過程だとする心眼に震えを覚える。

 映画化されなかった脚本への評論、作品キーワード事典、清順の加わった脚本家集団「具流(ぐる)八郎」批評、全監督作品解説、と続く4部構成を、読者は行きつ戻りつ、無限に楽しめる。1冊の本として世に出なければならなかった。

 ハリウッドの赤狩りを描く世界的業績で知られる著者が日本映画史のみならず、何かを論じる意味まで刷新する。とんでもない偉業に、敬礼!(作品社、1万円)

読売新聞
2020年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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